第27章 炎の怒り、バリアに血が滴る
剣戟の轟きは、誰にも慈悲を与えない。
血が旗を染め、
叫びが炎と混ざり合う時――
そこに残されるのは、ただ一つ。
耐えること。
そして、今夜――
エレオノールの都は燃え尽きるか、あるいは――再び立ち上がるか。
リーダー・ハークルの笑い声が、まるで地獄の太鼓のように戦場に響き渡る。彼は巨大な棍棒を力いっぱい振り回し、その目はサディスティックな悦びで赤く煌いた。
「――全員、突撃しろ! この忌々しい結界を破り、この街を我らのものにするのだ! すべてが、我らが支配する!」
背後では、山賊、異形の獣人、堕落した魔導師たちが一斉に咆哮しながら襲いかかる。その姿は、暗黒の大津波のようだった。
城壁上ではセレステが片腕を高く突き上げ、大声で指示を飛ばす。
「――防御モード、発動! 通すな! 負傷者を守れ!」
魔法の盾が激しい攻撃を受けて瞬く間に光り、兵士たちは矢を放ち、魔導弾を撃ち、盾の壁を築く。傍らでは、輝く槍を構えたオーレン率いる精鋭部隊が、そしてネリアンが杖から光の結界を展開して的確に防御する。
「エレノアのために――!」
オーレンが戦槍を振るいながら叫ぶ。
「後退などするな! 絶対に通さない!」
ネリアンは光の障壁で矢の雨を弾き返し、仲間を守り抜く。
一方、カグヤは風のように滑る。もはやただの忍びではない。影そのものと化し、敵陣をねじ伏せる死の幻影だ。
「変身・蛇忍(サソリの囁き)!」
彼女の身体は細長く変化し、毒牙のような顎で幻惑の罠を仕掛け、敵同士を喰い合わせる。
「変身・阿修羅エビ(ハセツランブ)!」
色鮮やかな鎧と刃で武装し、一閃の打撃で骨を砕く。
「変身・水鉄砲エビ(カイシンショット)!」
圧縮水弾を放ち、敵を吹き飛ばす。
「変身・ベータフィッシュ(リュウセイバクハ)!」
ジグザグに動き回りながら敵の隊列を乱し、制御不能に陥れる。
「変身・蚊忍(チシオの攻撃)!」
彼女は霧のように消え、背後から現れて敵の気力を吸い取り、砂のように干からびさせる。
その頃、地上ではリュウガが棍棒の一撃を躱していた。衝撃が砕け、土煙が巻き上がる。リーダー・ハークルは嘲笑を浮かべる。
「それだけか、冒険者! お前の怒りはどこにある! ふさわしい舞台を見せろ!」
リュウガの瞳が炎で揺れた。
「……求める怒りが、やがてお前自身を焼き尽くす。」
大地が震え、彼は炎を纏った剣を高く掲げる。
「ファイアソード――天使の激震!」
一閃、黄金の焔が剣に宿り、地を裂く勢いでリーダーの肉を斬り裂いた。
リーダーは血を滴らせながら、狂気の笑顔を浮かべる。
「ふふ……いいぞ、その調子だ!」
その間も、敵軍はバリアを押し続ける。セレステが力を込めて詠唱した。
「ソニック・マインダー――永遠の光のアリア!」
衝撃波が敵兵の鼓膜を轟かせ、数十体を吹き飛ばした。
「通すな! ここから一歩も下がるな!」
その光景はまるで嵐前の静寂のよう。天は黒雲を広げ、戦場は火と煙に包まれ、地は血で濡れてゆく。
そして――炎と鋼の剣を構えたリュウガと、血に飢えた巨人リーダー・ハークル。その一騎打ちが、まるで神々の戦いのように繰り返される。
一撃ごとに大地が砕け、衝突の度にエレノアの運命が火の中で書き記されていく。
この壮絶な戦いの先に待つものとは――。
高所の城壁で、セレステとカグヤは戦局を見極め、攻撃の隙を突いて敵の波状攻撃を防ぎ続けていた。セレステは胸の宝石を光らせ、手を天へと掲げた。
――「Xセイバー・ディヴァインパルス!」
黄金の光が螺旋を描きながら降り注ぎ、数十の敵の動きを鈍らせ、その隙に味方兵が反撃に転じる。剣戟の轟き、矢の風切り、灰色の煙が戦場を覆い尽くしていく。
――「カグヤ、右翼を頼む!」
セレステの声が響き、カグヤは一瞬目を閉じ、ニンシの言葉を胸に思い浮かべた。失われた命の痛みと、赦しへの炎。決意が彼女の内側で燃え上がる。
――「今度こそ、絶対に失わない!」
そして手を回し、光とともに姿を変える。
● 深海獣・センタロフリネスピヌ:「アビサルルアートラップ」を展開し、幻惑の網で敵同士を混乱させ、噛みつく。
● 氷牙獣・フォカロボ:「グレイシャルランページ」で突進、攻撃範囲を凍結させて敵を吹き飛ばす。
● 剛腕獣・ゴリラ:「シミアンクラッシュ」で拳を振るい、音速の衝撃波で兵列を崩壊させる。
● 大地獣・マウンテンブル:「テクトニックスパイク」で尾を突き出し、地面の岩盤を打ち砕き、複数の敵を貫く。
――「真の強さは心の中にあるのか!」
カグヤは怒りと覚悟を込めて吠えた。
――「セレステ、援護する!」
息を切らしながら彼女が叫ぶと、セレステは杖を構えた。
――「Xセイバー、展開!」
背後に光の剣が浮かび、先端が敵を薙ぎ払う。後方から援護に駆けつけた兵士や魔導師たちが、再び前線を固める。
一方、最前線では――
リュウガと敵将クラヴァックの激突が地を震わせる。棍棒による衝撃は大地を砕き、破裂音が響いた。
――「お前は強い、外部者だが神ではない! 身体を裂いてやるぞ!」
クラヴァックが咆哮と共に魔力の波動を放つ。
リュウガは「フォースパルス」で身を跳ね退け、一瞬の隙を突いた――
――「神などいらない。猛き悪を討つ力こそが必要だ!」
魔力こもった蹴りが敵を数メートル押し返す。
その時、クローが息を切らしながら駆け寄った。
――「ヴェル姫とリッシア姫は…?」
リュウガの問いに、クローは首を小さく振った。
――「…戦場にはいるようだが、姿を見失った。手がかりはありません…」
その直後――クラヴァックの一声が空気を裂いた。
――「爆裂矢、撃て! 城壁を揺らせ!」
ルーン刻まれた巨大な矢が放たれ、魔法の結界を突いて城壁の弱点を破壊。轟音とともに瓦礫が崩れ落ち、AurenとNerianが巻き込まれそうになった――
しかしその瞬間、チーター形態のカグヤが閃光の如く現れ、二人を腕ごと抱えて安全地帯へと引き戻した。
――「――大丈夫か!?」
彼女の声に応えて、二人はかすかに頷いた。
だが――その直後、二人の姿が揺らいで消滅していく。
――「そんな…!」
カグヤは呆然と立ち尽くした。
そして消えたその場所に姿を現したのは――ヴェルミラ姫とリッシア。
――「ヴェル!? リッシア!?」
リュウガが驚きの声を上げる。
――「ごめんなさい…私たち、後ろにいられなかったの」
ヴェルが頬を紅潮させながら、俯き気味に謝る。
リッシアも毅然と応えた。
――「私もよ。この国は私たちのもの。隠れているわけにはいかないの。」
戦場に一瞬の静寂が訪れ、敵ですらその場に凍り付いた。
だが、クラヴァックは不気味な笑みを浮かべた。
――「ふむ…面白い。狩りの獲物が増えたようだな。」
その声が、夜の闇をさらに重く包み込んだ。
煙が渦巻く中――
クラヴァクの咆哮は、戦の角笛すらかき消すほどに響いた。
だが彼の目には映らなかった。
まだ立ち上がる者たちの胸に、確かに燃え始めた“炎”を。
二人の王女は、消えることを拒んだ。
一人の戦士は、剣を手放さなかった。
闇が吠えようとも――
希望の声は、沈まなかった。
戦いは終わっていない。
だが――
エレオノールにて、伝説は今、幕を開けた。
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