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第282章 ― ヴォルテルの城壁に潜む影

ギャレオン号は街の外れにひっそりと隠され、一行は徒歩で進んでいた。

ヴォルテルの監視塔が遠くに見える。その石の刃のような冷たい輪郭は、まるで侵入者を拒むかのようだった。


「忘れるな」

リュウガは灰色のマントを肩に掛け直しながら低く言った。

「俺たちはただの旅人だ。目立つなよ。」


アンとアイオは、いつになく真剣な顔でうなずいた。

アンドロイドたちは頭を垂れ、フードの影でセンサーの光を隠す。

輝きを放つヴェルでさえ、その魔力を抑えて歩いていた。


やがて正門を通り抜けた瞬間、目の前の光景に彼らは一瞬言葉を失った。


にぎわう市場、駆け回る子供たち、馬車に乗る貴族たち、そして煌めく鎧を身に着けた兵士たち…。

一見すると、ヴォルテルは繁栄した普通の王国に見えた。


――だが、それは表面だけだった。


クローはある広場の前で立ち止まった。

そこでは奴隷の競りが行われていた。太陽の下で鉄の首輪が鈍く光っている。


彼女の手が震える。

「……あれは……あたしが付けられていた首輪と同じ……」


記憶がよみがえる。鎖、叫び声、そして人としての誇りを奪われた日々。

彼女は歯を食いしばり、低くつぶやいた。

「……あたしの自由が終わったのは、ここだった……。でも、みんなが……取り戻してくれた。」


リュウガは静かに彼女の肩に手を置いた。

「もうお前は一人じゃない。……この国がすべての元凶なら――一緒に向き合おう。」


さらに進んだ先、神殿の前でセレステが突然立ち止まる。

その外壁には、古代魔法の紋章が刻まれていた。


「この印……」

彼女は震える声で呟いた。

「私の偽りの記憶の中で、何度も見た……。」


呼吸が浅くなる。

「私の心に嘘を植えつけたのは……ここだった……。」


何かを言いかけたヴェルの前に、リュウガが歩み出る。


「セレステ、お前はあの記憶に縛られていない。

お前はもう“それ”じゃない。今ここにいるのが、本当のお前だ。」


セレステは彼をじっと見つめ、感情を押し殺すように静かにうなずいた。


そしてリュウガ自身もまた、中央の巨大な塔を目にして足を止める。

一瞬、脳裏にビジョンがよぎった――


白く冷たい実験室。

貴族たちの嘲笑。

「不要なものは削除すればいい。都合よく“再構築”できる。」


彼は胸を押さえながら、唇をかみしめた。


「ここだったのか……すべての始まりは。」


クローも、セレステも、その沈黙の意味を理解していた。


こうして一行は、無事にヴォルテル市内への潜入を果たした。

しかし、王国の裏に潜む“傷跡”は、リュウガたち三人の記憶の中に――確かに存在していた。


にぎわう街の喧騒の中、彼らが感じていたのは闇の残響だけだった。

そして分かっていた。


いずれ、ヴォルテルの“真実”と向き合うときが来る。

それを選ばなければ、自分たちはまた、闇に飲み込まれてしまうと。

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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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