第281章 謎の中の感謝
ガラスのような目をした少女が立ち去った後も、酒場にはまだ緊張感が残っていた。
村人たちは再びひそひそと話し始めたが、誰も大きな声を出そうとはしなかった。
リュウガは眉をひそめたままため息をつき、フローラの方へ顔を向けた。
彼女は腕を組んだまま、まだ扉の方をじっと見つめていた。
「……フローラ」
リュウガの声は低く、しかし真剣だった。
「ありがとう」
フローラは驚いたように片眉を上げた。
「ありがとう? なぜ?」
リュウガはゆっくりとうなずいた。
「君が立ちはだかってくれなかったら――たとえ視線だけでも――あの少女は何かしていたかもしれない。俺たちは気づかなかったかもしれないが、あの圧…皆にのしかかっていた。」
フローラはしばらく黙ったあと、穏やかに微笑んだ。
「別に大したことはしてないよ。ただ…あんな“もの”に虫けらのように扱われるのが、我慢できなかっただけ。」
アンは力強く立ち上がり、頷いた。
「私はちゃんと感じたよ。あいつ、私たちをまるで存在しないみたいに無視した。…それが一番腹が立つ。」
アイオは落ち着いた様子でリュウガを見つめた。
「Verseって…そんなに強いの?」
リュウガはすぐには答えなかった。
その目は冷静で、何かを計算しているかのようだった。
「村人の言葉が本当なら――俺たちは今、これまでの戦いを超える存在と関わってしまった。」
ヴェルは首を傾け、低い声で言った。
「最高ランクの冒険者グループ…しかもリーダーは“英雄”? これはもう別次元の話ね。」
リュウガは一瞬目を閉じ、静かに続けた。
「何であれ、Verseとはいずれ向き合うことになる。だが…」
彼は再びフローラを見つめ、わずかに、ほんのわずかに微笑んだ。
「今は、君が俺たちの側にいてくれて嬉しい。」
フローラは顔を少し赤くし、視線をそらした。
「へ、変なこと言わないでよ、リュウガ。ただ…やるべきことをやっただけ。」
村人たちの囁きは続いていた。不安と恐怖の中で――
その中でも「Verse」という名だけが、確実に皆の記憶に刻まれていた。
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