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第278章 ― 「ヴォルテルの門前に揺れる影」

ガレオン号は、ヴォルテル王国の城壁からわずか数時間の距離にある小さな村の近くへと、静かに着陸した。

空気はどこか重く、目に見えぬ不安と噂が村全体に染みついていた。

まるで、何か悪いことが起こると皆が悟っているかのように。


リュウガは真っ先に船を降りた。

その身体は傷の痛みに耐えながらも、意地で姿勢を崩さずに歩き出す。

隣にはセレステが控え、彼をさりげなく支えていた。


「……いきなり飛び込むんじゃなくて、まずはこの土地の“呼吸”を見ないと」

彼の声は低く、だが確かに真剣だった。


ヴェルは暖色のシンプルなドレス姿で、辺りを見回す。

「子供の姿がない……話し声も、私たちを見た瞬間に小さくなる。

この村……どこか、変」


クーロは変装のために選んだロングコートの襟を立てながら呟く。

「これは“学習された恐怖”だ。

何度も抑えつけられた者が、身体に覚える恐れ……目には見えない傷が、ここにはある」


アンドロイドたちも、人目を引かないように行動を調整していた。


パールはいつもの優雅な微笑みをたたえつつ、

周囲の地形と逃走ルートを静かにチェック。


ヴィオラは武装を軽く見せて、普通の武術家のように振る舞う。


リーフティは道端に咲く、枯れかけた花を見つめながら、静かに膝をついた。


ナヤの視線は鋭く、すべての村人の動きと魔力の流れを観察していた。


スティアとクリスタルは、ガレオンに残り、警備と機能維持に集中していた。




みゆきは、制服を思わせる現代的な装いでリュウガのすぐ横を離れなかった。

その笑顔は柔らかく見えるが――瞳の奥には、どこか“危うさ”が潜んでいる。


「……なんだか懐かしいわ。日本にもこういう“眠った村”がある。

静かで、でもその静けさの裏に何かを隠しているような場所」


だがその瞬間、アンが近づいてきたのを見た途端――

みゆきの表情が一瞬だけ強張る。


アンはモダンなジャケットとミニスカートを着て、明るく声をかけた。


「どう? みゆきさん、うちのチームに慣れてきた?」


「思ったより、ずっとね」

みゆきは穏やかに笑う――だがその目は細く、少し冷たい。

「……何せ、私はリュウガと、あなたたちより“ずっと前”から一緒にいたのよ」


数秒の沈黙。

空気が一瞬だけ凍る。


アイオが元気に飛び跳ねて、空気を破った。


「なら! コンテストしようよ!

リュウガと一番仲良しなのは誰か、決めようよ!」


「ちょ、アイオ!? なに言ってんの!」

アンが頬を赤らめて慌てる。


「だって平等でしょ?」

その無邪気さが、緊張をようやく笑いに変えた。




リシアが話題を切り替えようと、周囲に目を向ける。


「……この土地の料理、気になるわ。

食べれば、少しはこの村の“顔”が見えるかもしれない」


一行は村の酒場へと足を運ぶ。

だが、そこでも空気は異様だった。


村人たちは、リュウガたちの存在に気付きながらも、目をそらし、ささやく声が増える。


その中で、一人の老人が震える手で酒を持ち、彼らに近づいた。


「……もしヴォルテルに行くつもりなら……気をつけなされ……

あいつらは、約束を“鎖”に変える……」


パールが静かに肩に手を置き、問いかける。


「鎖……とは、どういう意味でしょう?」


「……首輪じゃ……意志を奪うやつ……ここから来たって……聞いた……」


その言葉は、冷水のように仲間たちの心に突き刺さった。


クーロの拳が震える。

その記憶が、痛みを伴って蘇る。


リュウガは、彼女に一瞥を送ると、老人へと視線を戻した。


「……ありがとう。それで、十分だ」




外に出た彼らを待っていたのは――

村の衛兵たちの、無言の“視線”。


まるで既に、監視されていたかのように。


そして――


みゆきが静かに、しかし確実にリュウガに寄り添いながら囁いた。


「……ね、見たでしょ?

あなただけを知ってるのは私じゃない。

でも、あなただけを“絶対に離さない”のは――私だけよ」


リュウガは応えず、ただ遠くを見つめる。


その先には、黒き霧に包まれた巨大な壁――

ヴォルテルの城壁が、不気味に静かに、彼らを“待っていた”。


踏み込む者を見下ろすように。


そして、その村は、確かに“始まりの影”だった。

ヴォルテルの“内側”に潜む、さらなる闇の前触れに過ぎなかったのだ。

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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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