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第272章 ――「破られた封印」

地図室には、古いインクと焼き入れられた金属の匂いが混じっていた。

中央の机の上、グレイオは蓋のない箱を置いた。その中には、腐食し尽くした受け皿の枠だけが残っていた。


「核心じゃなかった……封印だったんだ」

彼は拳で縁を叩き、低く呟いた。


王太子は色白ながらも毅然とした面持ちで巻物を広げ、マグノリアがランプを掲げて文字を照らす。

「この封印は“休眠の結び”を縛っていた。

物理的な怪物ではない。

――大地深く、眠る“残響”を封じていたものだ。」


リュウガは歯を食いしばる。

「封印を外すには“鍵”が要る。

つまり……エヴェソルが、その鍵を奪ったということだな。」


アズが薄く光る投影を広げ、地下構造と魔力の残留を示す線を描いた。

「封印が取り除かれたことで、複数の断層において深部アビス活動が上昇傾向にあります。」


クリスタルは冷静に続けた。

「即時的な覚醒とは言えない。だが“亀裂”だ。 そして亀裂は、確実に広がる。」


パールは腕を組み、眉を寄せる。

「なぜこんな封印を塔の中心に置き、誰にも記録を残さなかった?」


マグノリアは苦い息をついた。

「記録はあった。しかし、断片しか残らなかった。 それ以上に恐ろしいのは、“残されなかったもの”の方だ。」


太子は、さらに古い地図を広げた。

かすれた金色の記号が、三国――ヴォルテル、アルトニア、塔――を指し示す。


「数世紀前、星の聖王国はアビスと戦っていた。

その時、ヴォルテルもアルトニアも、そしてこの塔も、参戦していなかった。

軍も支援も条約も、何もなかった。」


ベルが眉をひそめた。

「なぜ、参戦しなかったの?」


太子は声を低くして言う。

「私も完全には知らない。

だが――その戦争は、ある日を境に、突如終結した。

聖騎士たちはすべての前線を撤退。

誰も、その理由を記録には残さなかった。」


リーフィが資源を見渡し、ヴィオラが武器の刃を研ぎ、ナヤはリュウガを見つめながら問いを探す。

リュウガは深く息をついて言った。

「もし、封印を奪おうという意思があるなら……

それは“開放”ではなく、“呼び覚まし”だ。」


スティアが低く振動を発し、アイオとアンは互いに真剣な目を合わせた。


「地下構造と魔力流路をすべて解析する」

セレステが命じる。

「その“残響”の方向を探す。」


太子は頷いた。

「この塔は、ガレオンが修復されるまでの“家”であるべきだ。

だが……今は“責任”の場でもある。」


――地下深く。


黒曜石の祭壇を中心とした岩の寺院。

そこに、封印の結び目が、かつての輝きを取り戻そうとしていた。


エヴェソルは、布で包まれたクリスタルを祭壇に置いた。

隣には、官能と陰影を纏ったサキュバスが静かに微笑む。


「世界は空を見すぎていた。

根底を見ようとする者は、影を暴く。」


封印は、微かに脈動し始める。

祭壇の文様が淡く光を帯び、岩の裂け目に緑が差す。


サキュバスはささやくように問う。

「覚醒させていいの?」


エヴェソルは手をかざし、決然と答えた。

「いい。 見えぬ真実を、喚び起こす。」


封印は、ひび割れを始め、空気は冷たく震えた。

眠りからの残響が、目覚めを告げるように。


――別の光の世界。


白光の廊下。

星の聖騎士たちが静かに進む。

黄金の騎士が端正な声で告げる。


「報告の準備を。 エクリプスは崩れ、塔は息を吹き返した。」


だが、青の騎士は立ち止まり、口を漏らす。


「……だが、封印が破られた。

それは、忘れられた真実を、世界に突きつける予兆かもしれない。」


その言葉は、廊下にこだまする。

闇を背負った光の行進は、白を貫いて遠ざかっていった。


再び、地図室。


アズがエネルギー流路を赤でハイライトし、

クリスタルが重要箇所を囲む。

パール、リーフィ、ヴィオラ、ナヤ、フローラ――全員が準備を整える。


セレステが宣言した。


「行こう。

この先にある残響を、確かめに。」


太子は掌を差し出し、リュウガがそれを取る。

グレイオが一撃してテーブルを鳴らす。


リュウガは皆を見渡し、静かに言った。


「敵は、残響を操る者だ。

だが――私たちは、封印を解く者ではない。

封印を守る者として、歩む。」


塔が軋んだ。

あたかも、その選択を承認するかのように。


――新たな旅が始まる予感とともに。

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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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