表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
286/324

第269章 ――「報酬、休息…そして嫉妬?」

戦が、疲れ切った潮のように引いていった。


ダイヤモンドの塔の白いテラスには、

灯された松明が、夕暮れの空を金色に染めていた。




王太子は、腕に包帯を巻いたまま一歩前に出た。

その両脇には、マグノリアとドワーフのグレイオが立っていた。


「これは完全な勝利ではありません」

凛とした声で、彼は言った。

「だが、未来へ進むための機会を得た日です。

――ダイヤモンドの塔を代表し、感謝を。」


彼は深々と頭を下げた。

マグノリアもそれに倣い、グレイオは戦槌を高く掲げて敬礼した。


宝箱が開かれ、

金貨、宝石、古地図、

そして安全な王道ルートを通行できる「王家の通行証」が二つ贈られる。


「受け取ってください。

そして――願わくば、修復が終わるまで、この塔を“家”として使ってください。」


リュウガは深く息を吐く。

生命再生の反動でなお青白い顔をしていたが、しっかりと王太子の目を見つめていた。


「……ありがとう。

休息を頂きます。

そして、必要な時には必ず――また、駆けつけます。」


拍手が起きた。小さく、しかし心からのものだった。




北の中庭は、即席の造船所と化していた。


スティアが構造を開き、

アズがケーブルを伸ばし、

クリスタルが精密に板を溶接し、

ヴィオラはネジをサイズごとに並べてまるで舞踏会のように整える。


リーフィが兵士と職人の編成を指揮し、

フローラが“芳香性”のある封印材を持ち込むと、半数の部隊がくしゃみで吹き飛んだ。

ナヤは完璧な勤務表を描き、誰一人倒れぬように調整した。


「順調なら、翼は三日で完成」アズは目を離さずに言う。


「逆に、失敗すれば……二日で完成」スティアが続ける。


「……え?」ヴィオラが瞬きをした。


「冗談だよ……多分。」


リュウガは思わず口元を緩めた。

数時間ぶりに、痛みが引いていた。



「感謝の夕食」は、いつしか――

ハーレム混沌戦争へと化していた。


ヴェルがリュウガの右隣に座り、

優雅に宣言する。


「快適性の臨時命令により、英雄様は“王室の部屋”にて休息ですわ。」


すかさず左隣のクロが、

卓よりも大きな戦槌を立てて対抗する。


「安全保障命令発令中。英雄は“私の選んだ場所”で寝る。」


ハルがそっと現れ、

お盆を差し出す。


「特製お茶…です。」


リュウガが一口――

「!!」小さな火を吐き出す。


「……ちょっと辛口。魂に効く、きつね風味。」

ハルは赤くなりながら言った。


ブルーナは無言で毛布を肩にかける。


「……食べろ。寝ろ。私が見張る。」


そこへ、アンとアイオが登場。


「ガーディアンモード、起動♪」アンが赤ずきん風に笑い、


「お兄ちゃん、すわって♪」アイオが絨毯を指す。


リュウガは従った。

絨毯は、ふわふわで――恐ろしい。

視線が三つ、静かに鋭く注がれていた。


手すりの上、ウェンディが腕を組む。


「あと五分立ってたら、分解してやる。」


その背後、パールが影のように現れる。


「その執行、私が補助します。」


クリスタルが一言。


「その宣言、記録済み。」


アズは板に書き込む。


「休息体制:強制レベル――暴君。」


……笑いがこらえきれず、広がった。




そして――

彼女が現れた。


巫女はゆっくりと歩み寄り、

松明の光がその顔に柔らかな光輪を作っていた。

微笑みはあまりにも優しく――だが、鋭かった。


「リュウガ……」

その声は、喧騒を貫く囁きだった。


「覚えてる? 小学校の時に言ってくれたよね。

『絶対に、私をひとりにしない』って。」


空気が変わった。


リュウガがまばたきをする。


「……ずいぶん昔の話だ。」


笑みは変わらない。だが、瞳が動く。

柔らかな絹の下で――鋼の光。


「約束に、期限なんてないの。」


セレステがセンサーを微調整。

ウェンディが一歩前へ――護衛と挑発を兼ねた動き。

ヴェルとクロは、重心を低くしながら察した。

――地面が“傾いた”。嫉妬の方向へ。


巫女はリュウガの手を取る。

その動きは神聖にすら見えるほど優しく――

だが、少しだけ、長く握っていた。


「今夜は……私がそばにいるわ。」

そして、囁くように続けた。


「――邪魔する人も、ちゃんと“見張る”から。」


ぞわり、と冷気が皆の背中を走った。


「……ごほん」

絶妙なタイミングでグレイオが咳払い。


「では――乾杯だッ!!

塔の誇りに、そして再び空を翔ぶガレオンに!!」


杯が掲げられ、呪縛は解かれた。

……一瞬だけ。




夜更け。

アンとアイオは、左右に挟んで“忠犬のように”眠る。


ハルはそっと、辛くないお茶を置き、

ブルーナは静かに巡回。

ウェンディは窓辺に座し、翼を畳んだまま、目を閉じない。


パールとクリスタルは「安全距離の再定義」について静かに議論。


ヴェルとクロは――

囁き合いながら、明け方まで“無言の戦争”を続けていた。


一方――

塔の薄暗い回廊にて、巫女が割れたステンドグラスの前で立ち止まる。


その反射が映すのは、完璧な笑顔。


「……誰にも、渡さない。」


囁くその声に、

ひんやりとした風が灯火を吹き消した。


――笑いに包まれた夜。

だが、塔は知っていた。


真の安息は、まだ訪れていないことを。

この章が気に入ったなら、ぜひコメント・お気に入り・共有をお願いします。

あなたの応援が、「小説家になろう」でこの物語を生かし続けてくれます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ