第268章(続)――「暴かれた鎖」
沈黙は鉛のように重く、
クロの告白は空気の中に浮かび続けていた。
否定も、忘却も――誰にもできなかった。
「……事実だ」
セレステが、冷静すぎる声で呟く。
「私の解析でも確認した。
複数の首輪から、同一の魔法式を検出した。
すべて、ヴォルテル由来の設計だった。」
リュウガがうなずく。
その表情は、まるで世界の重みを背負う者のように重かった。
「噂じゃない。
俺も奴隷市場を潰したときに聞いた。
売人たちは“誇り”をもって話していたよ。
“ヴォルテル製の首輪”だってな。
それを使うことが“格式”とされていた。」
その言葉が――
ヴォルテルの英雄たちに、見えない刃となって突き刺さる。
「……そんな……嘘よ……」
日本の弓使いが一歩後ずさり、震える手で弓を握り直す。
「私たちを迎えてくれたあの国が……守ると誓ってくれた国が……
その鎖を……“作っていた”の……?」
クロが拳を握りしめたまま、視線を上げる。
その蒼き瞳は、痛みと怒りに燃えていた。
「私は……それを“つけられた”んだ。
売られる時にね。
……まるで物みたいに。
その首輪には、確かに“VORTEL”の刻印があった。」
巫女であるミユキは、心が二つに裂ける音を感じていた。
リュウガを見つめ、涙が止まらなかった。
「……じゃあ、私たちが“女神の名のもとに”やってきたことは……
全部……無意味だったの……?」
剣士のリーダーが前に出て、叫ぶ。
「違う! 全員が悪いわけじゃない!
腐った貴族がいたとしても、国民全てがそうじゃない!」
セレステが、その言葉を冷ややかに切り裂く。
「“数人”で築けるほど、奴隷制度は軽くない。
それを見逃した時点で――その国は、“共犯者”だ。」
魔術師の青年が、顔を伏せたまま、ぽつりと漏らす。
「……もしかしたら……
最初から……俺たちは“利用”されてただけだったのかもな。」
緊張が頂点に達する中――
日本から来た英雄たちは互いの目を見つめ合う。
“正義”と“忠誠”の間で揺れる瞳。
そして、クロが一歩前へ出る。
その声は、揺れながらも、決して折れていなかった。
「……私を嫌えばいい。
この話を聞いて傷ついたなら、それもいい。
でも私は、あの鎖を実際に背負った。
今度は……あんたたちの番。
この国の罪を知っても、
“それでも守る”って言えるなら――
もう何も言わないよ。」
誰も、すぐには答えなかった。
ただ――
風だけが、誰の代わりでもなく吹いていた。
その時、大地がうねった。
遥か遠方の空に、再び光と影が交錯する。
蝕が、再びチャージを開始したのだ。
リュウガが顔を上げ、険しい目で遠くを睨む。
「……時間がねえ。
答えを出すなら、今だ。
この世界に、考える“余裕”なんて――
もうない。」
誰もが、遠くの空を見つめた。
爆発の余波に染まる、闇と光の狭間。
そしてその心には、たった一つの問いが刻まれていた。
――自分は、まだヴォルテルの“英雄”でいるのか。
それとも、今ここで、運命に抗う“選択”をするのか。
答えのないまま、
第267章は――静かに幕を下ろす。
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