表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/324

第25章 ― 見えない傷 ―

夜はすでに落ち、東部の野営地は未だに灯る松明の光に包まれていた。

まるで動かぬ蛍のように、ちらつく炎が静寂の中で揺れていた。

兵たちは沈黙のまま警戒を続けていた。

剣は腰に、槍は闇へと向けられ、まるで――

その“静けさ”そのものが敵に変わるのを待つかのように。


即席の監視塔の上――

一人きりのカグヤは、黙って地平線を見つめていた。

だが彼女の紫の瞳が見ていたのは、平原ではなかった。


それは記憶。

それは過ち。

それは罪。


その顔は静かに見えても、

その胸の内では、嵐が吠えていた。


「……全部、私のせい。」


そっと頬を撫でる夜風。

だが、その風すらも、彼女の傷には届かない。


「もっと早く動いていれば……自分を信じられていれば……

アルウェナも、兵たちも……」


瞼を閉じ、苦くつぶやく。

拳を握りしめたその手には、爪が食い込むほどの力がこもっていた。


その時――

すべてが、止まった。


松明の火が消え、風が静止し、

聖なる沈黙が、野営地を包み込む。


そして、その静けさの奥から――

まるで時を越えたような声が、響いた。


「見つけたぞ、カグヤ。」


カグヤは息を呑み、振り返る。


「……師匠?」


淡い月明かりの中、現れたのは紫の法衣を纏い、白銀の髪を持つ男。

その目には、厳しさと慈愛が宿っていた。


カグヤの足が震える。


「なぜ……ここに?」


師は腕を組み、静かに近づいた。


「お前は壊れている。静かに、だが確実に内から。

立っているように見えて、実は――崩れかけている。」


カグヤは目を伏せ、唇を噛んだ。


「私は……私は……失敗した……」


「嘘をつくな。その仮面は、もう見抜いている。

“影”としてではなく――“人”として、語ってみろ。」


沈黙。

そして――

その瞳から、ついに涙があふれた。


「……逃げたの……!誰も守れなかった……!

強さだと思っていたものは……全部壊れた……!

アルウェナも、兵も……あの人も――私のせいで死んだの!」


膝をつき、崩れ落ちるカグヤ。

その魂は、罪悪感で張り裂けそうだった。


「……どうして……みんなは立っていられるの……?」


師は膝をつき、彼女の肩にそっと手を置いた。


「――泣けば、癒えるのか?」


答えられないカグヤ。


師は静かに顔を上げさせる。


「痛みから逃げるな。

“失敗”は、弱さの証ではない。

痛みを知る者だけが――もう一度立ち上がる力を得られる。」


カグヤの瞳が揺れる。


「……じゃあ、私は……何をすれば……?」


師は微笑みながら手を差し出す。


「選べ。ここで止まるか――進むか。

お前の傷は、“燃料”にもなり得る。

失ったものは戻らない。

だが、まだお前を必要としている者がいる。」


「私は、お前に力を与えた。

だが、その“力の本質”を形にするのは――お前自身だ。」


「この混沌の中で……

私が最後に賭けた“希望の火種”があった。

それが――お前だった。カグヤ。」


カグヤは彼を見つめ、頬を伝う涙が月光に光る。


「……ありがとう、師匠……」


彼はうなずいた。

そして、風が再び吹いたとき、彼の姿は霧の中に溶けるように消えていった。


「礼は要らぬ。

ただ――前へ進め。カグヤ。」


松明の火が再び灯る。

野営地が再び鼓動を取り戻す。


だが――

カグヤの内側で、確かに何かが変わった。


「……追いついてみせる。」


そして、星々の下で、

彼女の瞳はそっと光を放った。


それは魔力ではない――

決意の光だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ