第261章 ――「復讐の飛翔」
煙はまだ消えていなかった。
ダイヤモンドの塔は蝕の衝撃による傷跡で軋んでいたが、アイオとアンの犠牲によって、いまだ倒れてはいなかった。
その上空。
ウェンディはサイバネティックな翼を広げ、輝く回路はまるで星々のように瞬いていた。
彼女の視線は、空に浮かぶイアト帝国の魔導長へと注がれていた。
闇の魔力で形成された宝珠たちが、その周囲を旋回している。
「…あの野郎…!」
ウェンディは怒りに震える声で呟いた。
「アイオを血まみれにして…すべてを壊しかけた…!」
地上からパールが叫ぶ。
「ウェンディ、待って!一人で行っちゃダメ、それは罠よ――!」
だが、もう遅かった。
ウェンディは既に飛び上がっていた。
青い金属の彗星のごとく、敵へと突進する。
魔導長が片手を上げると、魔法の矢の雨が隕石のように降り注いだ。
ウェンディは高速回転し、ホログラムフィールドを展開。
多数の矢を屈折させ、突破してきた数発も、強化装甲の翼が弾き返す。
「人形風情が…私に逆らうつもりか?」
魔導長は嘲笑する。
「その身をバラバラにしてくれるわ!」
ウェンディは獰猛に笑った。
「人形? 違うね。私はウェンディ。リュウガの娘であり、この未来を守る戦士だ。
そして今日は…お前の顔をぶっ飛ばす日だよ。」
次の瞬間――
一撃の羽ばたきで視界から消える。
魔導長が盾を展開する間もなく、彼女は背後から現れ、推進装置を込めた拳を叩き込んだ。
その一撃で、彼は空中を回転しながら吹き飛ばされる。
魔導長は体勢を立て直し、三重の魔法陣を展開。
魔力の鎖がウェンディの体を縛り上げる。
「これで終わりだ…貴様の回路をズタズタにしてやる!」
だが鎖がきつく締まる中、ウェンディの瞳が激しく燃える。
「回路だって? 違う…これは、心臓だ!」
彼女はオーバードライブモードを解放する。
《エーテルバースト・プラズマウィング》。
光の爆発が鎖を破壊し、
彼女の膝蹴りが魔導長の胸を貫く。
「…な…ばかな…アンドロイドが、こんな――」
その言葉は最後まで続かなかった。
ウェンディが彼のローブをつかみ、浮遊岩に叩きつける。
まるで怒りのハンマーのように、何度も何度も――
その様子を見ていた皇帝とヴァルダー。
「…あの娘を…甘く見すぎたな」
ヴァルダーが呟く。
だが皇帝は目を細め、冷静に語る。
「いいや、よく見ていろ。あの魔導長は…まだ真のグリモアを使っていない。」
血を吐きながら、魔導長はついにグリモアを掲げ、禁断の詠唱を開始する。
黒き魔力の奔流が彼の周囲を渦巻き、
やがて――多頭の幻獣が姿を現す。
ウェンディは拳を震わせながら、血まみれの手を握り直す。
だが、その顔には笑みがあった。
「魔法のヒュドラか。
ちょうどいい…お前をサンドバッグにしてやる。」
ウェンディがヒュドラに突撃する。
塔ではアイオとアンが手当てを受け、
遠くからリュウガがその戦いを見つめている。
――彼にはわかっていた。
次の一手が、この戦争の運命を決めるのだと。
この章に胸を打たれたなら、お気に入り登録、コメント、共有を忘れずに。
あなたのポイントが、「小説家になろう」でこの物語を生かし続けてくれます!