第260章 ――「天が裂けるとき」
蝕が100%で咆哮を上げた。
純粋な魔力の光線が天を貫き、戦場全体を第二の太陽のように照らす。
帝国の兵たちは武器を掲げ、勝利を確信して歓声を上げた。
皇帝とヴァルダーは静かに微笑み、もはや誰にもこの力は防げないと信じて疑わなかった。
だが、ダイヤモンドの塔で――
アイオが肺の奥底から叫ぶ。
緑と青の光が全身から燃え上がり、髪が絶望の舞を描くように宙に揺れる。
その姿は完全なる変身を遂げていた――
「盾の守護魔法少女」への覚醒だった。
「この場所は…絶対に、壊させないッ!!」
彼女が両腕を掲げた瞬間、塔全体を覆うように、クリスタルのドームが出現した。
蝕の光線が、その盾に叩きつけられる。
地面が揺れ、山々が裂けた。
兵士も英雄たちも、その光景に言葉を失う。
世界そのものが、今まさに割れようとしていた――。
アリシア形態のアンが、巨大な手を合わせて呪文を唱える。
「タイムラビット、今よ!」
アイオの周囲だけ、時間が再び引き伸ばされる。
そのわずかな“間”が、彼女にさらなる反応の猶予を与えた。
「…ありがとう、アン…」
涙と共に、アイオは囁いた。
盾は持ちこたえた。――しかし、ぎりぎりだった。
光の亀裂がバリア全体に走る。
アイオは悲鳴を上げ、鼻から血を流し、腕を焼かれるような苦痛に耐えていた。
アンもまた、膝をつき、命を削られながら術を維持していた。
やがて光線は軌道を逸れ、遥か遠くの谷を真っ二つに裂いた。
塔はなお立っていた。
だがその基礎には亀裂が走り、かすかに揺れている。
帝国の兵たちは沈黙に包まれた。
魔導長が視器を覗き込み、愕然と目を見開く。
「ば、馬鹿な…一人の少女が…蝕を…!」
皇帝は眉をひそめる。
「…違う。耐えたに過ぎん。止めたわけではない。見ろ。」
その言葉のとおり、
アイオの盾が星の塵のように砕け散っていく。
彼女は膝をつき、意識が飛びかけていた。
アンがその体を支え、かすれた声で呟く。
「…やった…よね……?」
ヴァルダーは怒りに震えながら、槍を握りしめた。
「たかが子どもたちに…帝国が…!」
皇帝はその内に激怒を秘めながらも、氷のような冷静さで言う。
「…盤面が変わった。
あの光を耐える者が現れた以上、我々も…新たな手を打たねばならぬ。」
一方、塔では仲間たちがアイオとアンのもとへ駆け寄る。
ヴェルは涙を浮かべながら、アイオの額に手を添える。
「お姉ちゃん…もう、こんな怖いこと…しないでよ…!」
リシアは震える手で弓を下ろしながら言った。
「…もうだめかと思った…本当に…」
ウナキタ形態のセレステが奥歯を噛みしめる。
「これで終わりじゃない。蝕が再チャージしたら…もう次はない。」
空はなお赤く染まり、砲撃の余波が空間にこだまする。
そして、蝕は静かに再起動を始めていた。
敵は次なる手を準備し、
味方たちは生き延びたものの、すでに限界は近い。
遠くからその様子を見つめるリュウガは、拳を握りしめる。
――今こそ、本当の反撃を始める時だ。
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