第257章 ―― 炎と影の飛翔
空が燃えていた。
蝕は黒い太陽のように、すべてを喰らおうと咆哮していた。
その地獄の中心で、ウェンディはサイバネティックな翼を心の限りに羽ばたかせていた。
――命を賭けても…止まらない!
だが、敵は待ち構えていた。
イアト帝国の魔導長が、黒い杖の上に浮かびながら手を上げた。裂けたローブの下、刻まれたルーンが肌に浮かび、周囲を回る宝珠が深紅の炎を放っていた。
「虫けらめ… 一人の娘が皇帝の意志に抗えると思うか?」
地上からは、兵士たちが魔矢と闇の雷を放ってくる。絶え間ない雨のように。
ウェンディは空中で回転し、青いエネルギーの盾を展開。衝撃のたびに後退し、爆発のたびに翼が焼かれる。
魔導長は残酷に微笑んだ。
「蝕の緋嵐!」
天が裂け、炎と闇の槍が隕石のように降り注いだ。
すべてを避けきれなかった。
一本が左肩を貫いた。
彼女の叫びが風を裂く。
痛みで高度を失うも、その瞳…その瞳だけは決して折れなかった。
リュウガの、ガレオンで血まみれになった姿を思い出す。
アンとアオの笑顔を思い出す。
泣いていた子どもたちの顔を思い出す。
そして、微笑んだ。
――今ここで倒れたら…リュウガはまた誰かを失う。それだけは…許せない!だから、私は――負けない!
彼女の翼が双つの太陽のように燃え上がる。
血が滴る中、その瞳の力強さは誰にも砕けない。
地上では、リュウガが血まみれの通信機でかすれた声を送る。
「…蝕…99%…ウェンディは…一人じゃ…!」
それを聞いたセレステが歯を食いしばり、怒りに震える。
「絶対に一人にしない!」
カグヤが真剣な表情で彼女の肩に手を置く。
「ならば、共に行こう。」
後方からナヤが声を上げた。
「彼女が空を飛ぶなら…私たちは地を切り拓く!それしかない!」
上空、蝕はついに100%に到達。
砲が黒い太陽のように輝き、空の光を飲み込んでいく。
魔導長が杖を掲げ、歓喜の声を上げた。
「永遠の夜が、この世界を呑み込むがよい!」
ウェンディは震える身体で、すべての力を集中させた。
周囲の空気が振動する。
「たとえ身体が裂けようと…私は壊す!」
彼女は砲に向かって急降下した。
衝突まで、あと数秒。
その時、目の前に緑のポータルが開いた。
中から現れたのは、ウナキタ形態のセレステと、エイとフグの融合姿となったカグヤ。
「あなたは一人じゃない!」セレステが叫び、最初の光線を遮るためにクリスタルを展開する。
「噛みつかれる前に、その顎をへし折るぞ!」カグヤが怒号と共に、水の衝撃波で飛来する弾丸を散らす。
空全体が震撼する。
蝕の黒い太陽を背に、三人の戦士が立ちはだかる。
地上では、血塗れのリュウガが空を見上げ、呟く。
「…耐えてくれ…ここが、運命の分かれ目だ…」
砲は最大出力で唸り、エネルギーの激突が今、爆発しようとしている。