第255章 ― 絶望の飛翔
空が震え、大気そのものが共鳴していた。
「蝕の光」は99%に達し、世界の鼓動が終焉へと近づいていた。
ウェンディは、全力で空を翔けていた。
サイバネティックな翼は太陽の炎のように輝き、燃え上がる尾を引いて疾走する。
その瞳には、ただ一つの決意が映っていた――
「間に合わなければ、すべてが終わる」
「もう少し…っ!」
胸を打つ心臓の音が、耳の奥で戦鼓のように響く。
だが、帝国は彼女を“到達させない”という意思をはっきりと示した。
「蝕」の大砲を囲む城壁の上で、帝国の魔兵たちが暗黒の詠唱を始める。
炎と毒を帯びた矢が、黒い雨のように空を覆い、
雷撃と火球が次々に発射され、彼女を撃ち落とそうとする。
ウェンディは急旋回し、エネルギーシールドを展開しながら、
ガントレットからプラズマの連射で反撃する。
一撃で敵を爆散させても、すぐに三倍の敵が現れる。
空はすでに、魔法の爆炎で満ちていた。
闇の矢が彼女の頬をかすめ、熱い血が流れる。
「生きている」と嫌でも実感する、その痛み。
「止まらない…! 絶対に止まらない!!」
咆哮と共に、太陽の閃光を解き放ち、
空中の矢を何十本も焼き尽くす。
その瞬間――
空から、圧倒的な魔力が降りてきた。
帝国の大魔導師イアトが現れる。
紅の魔法陣に浮かび、黒の法衣が風に揺れる。
目は灼けるような紅、手には紫の宝玉が脈動する杖。
「貴様が…太陽に触れようとする、小さな虫か」
声は低く、そして嘲りに満ちていた。
ウェンディは呼吸を荒げながら、にらみ返す。
「もし焼き尽くされても…それでも、止めてみせる!」
魔導師は不敵に笑い、杖を振り上げる。
「ならばここで、その炎を消し去ろう」
紫の宝玉から、黒い槍の嵐が放たれる。
それはまるで流星雨のように、無数の死が彼女へと降り注ぐ。
ウェンディはすぐにプリズムバリアを展開し、最初の波を防ぐ。
だがその一発一発が、骨を揺らし、全身を押し潰すような衝撃をもたらす。
それでも彼女は前へ。
矢のように空を裂き、イアトへと向かって突進する。
「――紅蓮崩壊!」
魔導師が絶叫と共に放った魔法。
暗黒の爆風が空全体を焼き払い、空間を破壊する。
ウェンディは腕を交差し、太陽の盾で自身を包む。
だが、衝撃は凄まじく、彼女の翼は焦げ、制御不能で空を翻弄される。
――遠くガレオンから、リュウガたちが異変を察知した。
通信機にはノイズが走る中、彼の声だけが届く。
「…ウェンディ…耐えろ…!」
彼女は空中で咳き込み、血を吐きながらも、姿勢を立て直す。
全身が悲鳴を上げ、骨が砕けるように痛んでも、
その翠の瞳だけは、まだ燃えていた。
「何度倒れても…そのたびに、立ち上がってみせる!」
イアトはゆっくりと降下し、哀れむように彼女を見つめる。
「ならば、何度でも死ね。
どうせ…『蝕の光』は発射される。貴様には、何もできん」
両者が静かに睨み合う。
背後では、黒き太陽のように輝く大砲が、今まさに放たれようとしていた――
天空での、決戦が始まる。
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