第252章 ― 奈落の再誕
トンネルは煙と炎に包まれていた。
緋の騎士はよろめき、鎧は裂け、黒い液体が毒のように滴っていた。
英雄たちは息も絶え絶えに、かろうじて立っていた。
「やった…」
ヴェルが額から血を流しながら囁く。
「うん…確かにひびが入ってる」
セレステのセンサーが輝きながら応える。
「奴は…傷ついてる」
クーロが震える手で剣を向ける。
「なら――終わらせるだけ」
だがその瞬間、緋の騎士が笑い始めた。
それは乾いた金属のような笑いで、通路の壁に地獄の反響のように響いた。
「私を傷つけた? ふふ…それこそが、解放なのだ」
周囲に浮かんでいた黒いオーブが闇の光の破片となって爆ぜ、騎士の身体へと吸い込まれていく。
鎖が生き物のように彼の肉体に絡みつき、残った鎧を引き裂いた。
肉体は黒く染まり、まるで溶鉱炉の鉄のように硬化する。
赤く光る瞳――
そして背中からは、緋色の刃でできた翼が伸びる。
もはやその声は人間ではなかった。
「我は奈落の意思。折れぬ剣なり」
空気そのものが歪む。
通路には圧が満ち、まるで世界全体が彼らを押し潰そうとしているかのようだった。
ヴェルは膝をつき、目を見開く。
「こ…これは…耐えられない…!」
クーロは歯を食いしばり、冷や汗を額に滲ませる。
「身体のすべてが…降参しろって叫んでる…」
セレステはプリズマドゥーラのまま、システムを維持しようとするが、演算すら震え始める。
「この力…すべての記録を超えてる!」
騎士が刃の翼を広げた。
その一撃で、何百もの緋の刃が通路を埋め尽くす。
反応したのはカグヤだった。
マンタレイ形態で翼を広げ、仲間たちを覆って守る。
全弾を防ぎきることはできず、壁に激突し、意識を一瞬失った。
「カグヤ!」
ヴェルの悲鳴が響く。
騎士が進み出す。
その一歩一歩が、運命の釘を打つかのように響く。
「今こそ…一人ずつ、砕いてやろう」
黒鎖が飛び、ヴェルの身体を巻き取る。
彼女が悲鳴を上げながらも、炎の棘で反撃し、一本だけ断ち切った。
クーロが青の月光の斬撃で援護するが――
騎士はそれを片手で止めた。
圧倒的だった。
絶望の中――
傷つき、巫女に支えられたリュウガが声を上げる。
「――諦めるな! どれほど重くとも…あいつもまた、血を流すただの怪物だ!」
騎士が彼を見下ろす。
「その身体では、もう何もできまい。潔く死ね」
リュウガは血を吐き、微笑む。
「まだだって…言っただろう」
彼の手の下に、マグマの魔法陣が浮かび上がる。
だがその魔力に、彼の身体は震えていた。
巫女が彼を抱きかかえ、涙を流しながら叫ぶ。
「ダメ…! これ以上は、あなたの命が――!」
リュウガが静かに彼女を見つめる。
「なら…君の“信仰”を貸してくれ」
彼女が手を組み、光の祈りを注ぐ。
その力が、リュウガの術式を補強していく。
崩れ落ちそうだった英雄たちが、光に包まれて目を上げる。
リュウガと巫女の放つ炎と祈りの輝きが、通路を照らしていた。
セレステ、ヴェル、クーロ――
その光を浴び、再び心に火が灯る。
騎士が咆哮し、刃の翼を全開に広げる。
「来い! ここで――全てを終わらせてやる!」
通路は、炎、光、そして影に包まれた。
緋の騎士の“奈落形態”との、最終決戦が今――始まろうとしていた。
読んでくれてありがとう!
感想・評価・コメント、お待ちしています
あなたの声が、この物語の力になります