第250章 ― 緋き影の下での誓い
通路の空気は、もはや呼吸すら困難なほどに重く沈んでいた。
緋色の騎士が地面に剣を突き立てると、その周囲を漂っていた黒いオーブが無数に増殖し、黒き月の群れのように回転を始める。石床は圧力に耐えきれず、ひび割れを生じさせていた。
「よく耐えた…だが、ここで終わりだ」
オーブから放たれたのは、緋のエネルギーで形作られた無数の槍――それは嵐のように降り注いだ。
ヴェルが燃える棘の壁を展開し、セレステはプリズムの結界を広げ、クーロは青の剣を振るい、飛来する一部を凍らせた。
それでも、爆風は彼らを壁へと吹き飛ばした。
リュウガが立ち上がろうとするが、以前の戦闘で受けた傷から血が流れ落ちていた。
巫女が駆け寄り、光を帯びた手で彼の胸に力を込める。
「リュウガ…お願い、持ちこたえて!」
その声は癒しと絶望を混ぜた祈りのようだった。
彼はかすかに笑みを浮かべる。
「心配するな…まだ倒れる気はない」
煙の中から現れたのは、黒いワニ忍者の姿をしたカグヤ。その鱗は生きた鋼のように輝く。
「全員、下がれ!」
彼女が咆哮し、口から闇のエネルギーのブレスを放つ。それは大地を二つに割った。
だが緋の騎士は、それを片手で防ぎ、口元に笑みを浮かべる。
「面白いな…半獣か。だが、すり潰すだけだ」
カグヤは怒涛の連撃を繰り出す。
モード・ハーレクインシュリンプで高速のフェイントと斬撃を、
モード・ゲーターで圧倒的な力を叩きつける。
だが、騎士はすべてに耐え、呪われたエネルギーがその鎧から噴き出していた。
セレステはジェイドモードとなり、「光学予知システム」を起動。敵の剣筋を読み取り、叫ぶ。
「左、ヴェル! 上、クーロ!」
その的確な指示が、致命傷を回避させた。
だが、黒鎖の端が仲間の身体をかすめ、皮膚と鎧を引き裂いていく。
ヴェルは腕から血を流しながらも、負けじと叫ぶ。
「どれだけ押し潰そうとしても…私たちは退かない!」
クーロは荒れた息をつきながら前に踏み込み、
彼女の「黄昏の閃光」は空気を切り裂き、黒い裂け目を残す。
その一撃に、騎士が初めて一歩後退した。
怒りの咆哮と共に、騎士が第二段階へと移行する。
その緋色の鎧は殻のように開き、内側からは生きた黒鎖に包まれた異形の肉体が現れる。
目は人ならざる炎を灯していた。
「今こそ――奈落の重圧を思い知るがいい」
黒鎖が増殖し、通路全体を埋め尽くす。
その一撃一撃は、肉体を傷つけるだけでなく、命の力を吸い上げていく。
リュウガは意識を朦朧とさせながら、その光景を見つめる。立ち上がろうとするも――
巫女が彼を止め、涙を浮かべて訴える。
「ダメ…! 動けば、あなたが死んじゃう! この戦いは、あの子たちに任せて…!」
悔しさに歯を食いしばりながら、リュウガは拳を握る。
――セレステ、クーロ、ヴェル、カグヤ。
彼女たちは傷だらけでありながら、なおも立っていた。
騎士が剣を高く掲げる。
その刃は黒き炎に包まれ、終焉を告げる刃となっていた。
セレステが目を閉じ、静かに囁く。
「ならば…私たちも、すべてを賭けるまで」
ジェイドとプリズムの結晶が空へ舞い上がる。
ヴェルは燃える花びらの陣を広げ、クーロの瞳には紅の月が浮かぶ。
カグヤは、すべての姿を重ね合わせた咆哮を放つ。
――最終の激突は、今まさに始まろうとしていた。
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