第241章 ― 影の道
巨獣の咆哮は遠くから響いていた。
だが、彼女たちは振り返らなかった。
アンは己の戦場を選び――
今、この〈エクリプス〉を止める使命は、クロ、ヴェル、リシアの三人の手に託されたのだ。
ウナキータが示した隠し通路は、まるで傷痕のように山間を蛇行していた。
地面は根に覆われ、裂け目が至る所に口を開けている。
風は焼け焦げた金属と血の匂いを運んでいた。
「この道を進めば、砲台の基部に到達できる」
リシアが弓の弦を引きながら言った。
「けれど……私たちだけじゃない」
その言葉の通り、次の曲がり角を超えた瞬間、待ち構えていたのはイアト帝国の精鋭部隊。
黒き鎧に身を包み、魔槍を構える兵士たち。
その横には、召喚された獣たちがうごめいていた。
進撃を阻むために編成された、“生きた壁”。
クロが杖を掲げる。
純白のオーラが彼女を包み、“清浄の姫”の姿が浮かび上がった。
その手から放たれた光の衝撃波が、前方に一瞬の通路を切り開く。
「数など関係ないわ! 私がいる限り、エクリプスの再発射はさせない!」
ヴェルは一歩前に出る。
背から伸びたユニコーンの翼が、花弁のように輝く刃を撒き散らす。
それは同時にクロの肩の切り傷を癒していた。
「前へ進んで! 私がここを押さえる!」
リシアは目を閉じ、大地の力に意識を委ねる。
放たれた一射の矢は、空中で百に分裂し、敵の弓兵部隊を一掃した。
「走れ! 後方は任せて!」
だが、それでも足りなかった。
敵は尽きることなく現れ、その中に――
現れたのは、影に覆われたドラゴンのような獣に騎乗した“黒鉄の騎士団長”。
クロは眉をひそめて言った。
「ただの兵ではない……あれが“門番”」
黒く焼けた仮面の奥から、騎士は嗤う。
「誰一人通さぬ。エクリプスは、お前たちの死骸を糧に動く」
この戦いは偶然ではない。
彼女たちの進行を止めるため、意図的に配置された“時間稼ぎ”だった。
だが、それでも止まれなかった。
砲の充填は進み、時計の針は確実に終末へと進んでいる。
ここから先は、ただの戦闘ではない――
運命を分かつ“死闘”が、今始まる。
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