第237章 ― 塔に響く残響
ダイヤモンド・タワーの内部は、重苦しい熱気に包まれていた。
“エクリプス”の攻撃によって壁には亀裂が走り、いくつもの部屋が崩落。
負傷者たちが廊下を埋め尽くし、治癒士や兵士、そして稼働可能なアンドロイドたちが懸命に治療を行っていた。
血に染まった顔で、それでも毅然と命令を飛ばすのは――王子アルサ。
槌音と戦の叫びが交錯する中、その声は揺るがなかった。
「東壁を強化しろ! 絶対にあのラインを越えさせるな!」
その隣では、マグノリアが即席の旗を掲げていた。
それには王国の紋章が描かれており、彼女の声は鐘のように澄み渡る。
「私たちは誰なのかを忘れないで! エクリプスだろうと、帝国だろうと、この大地は渡さない!」
一方、ドワーフのグレイオは、ひび割れた壁を見つめて顔をしかめていた。
「チッ……この壁はまだ保ってるが、次の直撃は持たんぞ。時間稼ぎが必要だ」
中央ホールでは、残されたアンドロイドたちが防衛の指揮を取っていた。
パールは手際よく魔導ライフルを再装填し、戦える兵士たちに次々と武器を手渡していく。
クリスタルは壊れた窓から射し込む光を受けて、紫の髪を煌めかせながらエネルギーの盾を展開。長距離射撃を遮断していた。
ヴィオラは老練な兵士のような冷静さで、塔内部の警戒巡回を編成し、侵入の可能性を徹底的に排除していた。
そして最前線には、ブルーナとハル――馬娘と狐娘が控えていた。
敵の突撃が始まれば、即座に迎撃へ跳び込む体勢を取っている。
そのとき――
司令室の床がかすかに振動した。
“エクリプス”が再び脈動し、闇の輝きが石壁を赤く染め始める。
アルサは奥歯を噛みしめた。
「もう一撃……それが来れば、塔は持たない」
マグノリアが振り返り、全員に向けて声を上げる。
「最後の一滴まで血を流しても、ここで踏みとどまるのよ! リュウガたちはきっと突破口を見つけてくれる。それまで――私たちが、この世界を支えるの!」
兵士たちは一斉に咆哮した。
ひび割れた壁に、誓いの声が反響する。
それは、決して退かぬ覚悟の音だった。
そして、戦火の轟音の中で――
ダイヤモンド・タワーはなおも輝いていた。
エクリプスすら、貫けぬ誇りの光で。
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