第236章 ― 宝石の戦略
“エクリプス”の輝きが地平線を血のような赤で染めていた。
その脈動は怪物の心音のように響き、次なる砲撃が迫っていることを告げていた。
一行はかろうじて前進を続けていたが、リュウガはセレステに支えられ、ヴォルテルの英雄たちは先ほど目にした光景の衝撃から抜け出せずにいた。
ミユキは堪えきれずに口を開く。
「リュウガ……あの機械、あの兵器……どうやって作ったの? 女神ですら、そんなものは私たちに見せなかった!」
リュウガは立ち止まり、疲労と厳しさが混ざった眼差しで彼女を見つめた。
「今は話す時じゃない。いずれ答えは伝える……だが、もしここで死ねば、全ての問いは無意味になる」
そのとき、セレステの通信機が振動した。
フローラの姿がクリスタルに現れ、戦闘中であることを示す荒い声が届く。
「リュウガ、セレステ! 状況は!?」
「まだ生きてる」
リュウガが無理に落ち着いた声で答える。
「よかった……! みんなに無事を伝えるわ」
だが、次の瞬間、声色が深刻さを帯びる。
「ウェンディが……エクリプスに向かったの。一人で止めに行くつもりよ」
沈黙が重くのしかかった。
セレステは眉をひそめ、表情を鋭く引き締めた。
「……なら、もう一刻も無駄にできない」
その身体が深い緑色の輝きに包まれ、大地のような結晶が彼女の鎧を覆っていく。
髪もまた、湿った森のような色に染まる。
“ウナキータ形態”が発動されたのだ。
「この姿なら植物と繋がれる。感覚を自然そのものに広げられる」
両手を掲げると、大地から無数の根と蔦が芽吹き、絡まり合い、空中のアンテナのように伸びていく。
「数キロ先の動きまで、追えるわ」
続いて、セレステは自らの“分身体”を二体生み出す。
一体目は、輝く鎧をまとった《ジェイド形態》。ウナキータの感覚範囲を拡張・強化する役割を担う。
二体目は、《PRIMSアーマー》――結晶体の分身であり、その存在だけで空間に波紋のようなエネルギーを発していた。
「私は救援の転送と、負傷者の避難を担当する」
その声は、空気を震わすような透明な響きだった。
ヴォルテルの英雄たちはその光景に息を呑み、一歩後ずさる。
「こんな力……人間じゃない……」
ダイチが低く呟く。
ミユキは震えながら、リュウガから目を離せなかった。
そんな中、冷然としたカグヤが静かに言った。
「……これがセレステ。恐れることはない。私たちは、こうして戦ってきた」
ナヤがドローンを操作し、空中にホログラムを展開する。
「確認完了。“エクリプス砲”は再充填中。予測時間:12分。塔への直通ルートは遮断されています」
リュウガは拳を強く握りしめた。
その瞳には、痛みを超えた決意が宿っている。
「……なら、ルートを変えるしかない」
ウナキータの蔦がさらに広がり、瓦礫の間から隠された通路を指し示していく。
それは、廃墟の中に埋もれた“可能性”の道だった。
戦場は変わった――
今やそれは、時を賭けた“生存のレース”となった。
そして相手は、“消滅”を目論む帝国そのものだった。
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