第235章 ― 影と銃弾の雨
ダイヤモンド・タワーの空は、点滅する光の地図のようだった。
遠方で脈打つ“エクリプス”の閃光、クレーターと化したガレオンの爆発、そして空を駆ける魔法の稲妻――混沌の只中で、防衛は怒りと精密さが交錯する“戦の舞踏”へと変貌していた。
アンは他の仲間たちと共に南側の胸壁に立っていた。先の戦いの余熱が塩のように肌に残り、光を反射している。
深く息を吸い、意志を集中させると――まるで塔そのものが彼女に応じるかのように、アンの姿は光の反射となって分裂した。
数十体のアンが完璧な同期で進撃を開始する。
それは幻影ではない。戦いの精神が具現化した、実体ある“分身”だった。
「――突撃!!」
本体の叫びに、全てのアンが一斉に雄叫びで応じる。
最初に解き放ったのは《アンドロメダ》。
彼女の手から星の球が流星のように降り注ぎ、敵陣に亀裂を走らせた。
球体は互いに引き合い、着弾と同時に光の網を広げ、鎧を砕き、陣形を粉々にする。
その爆音は壊れた鐘のように響き、空気は塩とオゾンの味を帯びた。
さらにアンは杖を旋回させ、《影姫》を展開。
足元の地面から引き裂かれるように現れた影が、槍や破城槌の形を取り、冷たい突風のように敵を貫いた。
それは肉体を傷つけるだけでなく、影に触れた者の“平衡”を奪い、まるでドミノのように敵の隊列を倒していった。
その隣では、かつて“魔法のカウガール”と呼ばれたアイオが、すでに戦術を実戦仕様へと進化させていた。
腰のベルトから取り出したのは、ルーンの火花を散らす“魔法機関銃”。
彼女は円を描くように発砲し、弾丸はただ前に進むのではなく、波紋のように跳ね返り、まるで獲物を狩る本能を持つかのように敵を追い詰めていった。
魔力の銃撃が氷も鋼も肉体も貫き、容赦なく戦場を掃除する。
近くでは、ヴィオラが最も過酷な場面に直面していた。
放たれた一発のアーケイン弾が、晒された民兵たちを狙う。
反応した彼女は身を投げ出し、その一撃を肩で受け止める。金属の関節が音を立て、膝をついた。
自動で再調整されたその砲門が火を吹き、敵の進行を強制停止させたが――
一瞬、彼女は戦線そのものを背負う“盾”と化していた。
「ヴィオラ、応答せよ!」
背後から声が飛ぶ。
「状態……安定」
苦痛の中でも、冷静な声が返る。
「防衛機能、再調整中……」
その時――
空から、金色の花びらの霧が舞い始めた。
ヴェルの《永遠花雨》が再開されたのだ。
花びらは斬り裂き、癒し、敵の列に隙間を生み、味方の傷を閉じた。
その間、リシアは高台から矢の雨を放ち、アンの魔法と交差する“死の格子”を築く。
カグヤの猫型分身は側面から走り抜け、通路の敵を排除。
ハルは幻影の尾を振るい、強襲部隊の認識を撹乱。
ブルーナは再編を試みる部隊に突撃。
すべての動きが、一つの交響曲のように噛み合っていた。
それでも、圧力は止まなかった。
イアト帝国に“間”は存在しない。次から次へと波が押し寄せ、まるで戦場そのものが膿を吐き出す傷口のようだった。
アンドロメダと影姫の連携は凄絶だったが、アンのエネルギーをも喰らい尽くしていた。
分身たちは霧のように解け、本体へと帰還していく。
息を荒げながら、アンは最後の力を振り絞って叫ぶ。
「持ちこたえて! 右側の再編を阻止するのよ!」
その塩に輝く瞳は、戦場の彼方に焦点を合わせていた。
「ここを切り崩せば……リュウガたちが戻る“道”ができる!」
アイオは連射の合間に帽子を傾け、不敵に笑う。魔力の火薬がパチパチと音を立てる。
「了解! 撃ちまくって、一匹たりとも残さないわよ!」
ヴィオラは兵士に支えられながら立ち上がり、標準を合わせて新たな弾を装填する。
砲口から放たれたプリズム弾は、まるで“宣告”のように敵を撃ち抜いた。
「防衛……再開」
アンの遠距離魔法、アイオの乱射、ヴェルの癒しと切裂き、リシアの狙撃、アンドロイドたちの砲撃。
すべてが連携し、“可動する防壁”を形作っていた。
今はまだ――崩れてはいない。
壁の上では、怒号と命令と祈りが渦巻いていた。
そして、空のその先。
煙の彼方で、闇色のプリズム――“エクリプス”が、またひとつの爆発を予兆する光を放っていた。
地上で稼がれる一秒が、塔にとっては命の一片となる。
「……崩れるな!」
リュウガの心の中で叫びが響く。
「一発、一太刀、全部が意味を持つ……!」
戦いは続く。
容赦なく。
だがその姿は、残酷で、美しい。
そして次なる一手――
さらに凶暴で、決定的な“運命の一撃”が、すでに地平線で胎動していた。
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