第243章 ― ウェンディの飛翔
ダイヤモンド・タワー内は、叫び声と負傷者の呻きが入り乱れる混乱の渦だった。
“エクリプス砲”の爆発は壁に深い亀裂を残し、その余波は石一つひとつにまで響いていた。
ウェンディは休むことなく、倒れた兵士たちの間を駆けていた。
医学の知識とリュウガのテクノロジーによって強化されたその手からは、温かな光が脈打ち、傷を閉じさせ、命に力を与えていく。
「圧迫を続けて! 出血を止めなきゃダメ!」
兵士たちは彼女を希望のまなざしで見つめていた。
ウェンディはただの癒し手ではなかった。嵐の中で揺るがぬ“柱”だった。
だが、そのとき――
遥か彼方から、再び“エクリプス砲”の轟音が響いた。
地平線に、イアト帝国の兵器が再び脈動し始めるのが見える。
ウェンディの心臓が、一瞬止まった。
「……だめ……撃たせない」
呟きは、すぐに確固たる意志へと変わった。
彼女は立ち上がり、最後に治療を終えた兵士の傍を離れる。
片手を胸に、もう一方を空にかざすと、その戦闘服が輝きながら分解・再構築されていく。
身体全体を駆け巡るデジタルの光。
青い電撃のような閃光が走り、金属のスーツが再構成されると、彼女の背中から――光の刃のような“サイバーウィング”が展開された。
「プロトコル:サイバーウィングモード……起動」
髪が解き放たれたエネルギーに揺れ、彼女の瞳は黄金の輝きを放つ。
その姿を見て、血を流しながらも兵士の一人が叫ぶ。
「ウェンディ、やめろ! 行ったら……死ぬぞ!」
彼女は微笑んだ。悲しさを帯びた、しかし穏やかな微笑みだった。
「これは自殺なんかじゃない……私が“やらなきゃいけないこと”なの。
あの砲撃がもう一度来たら、ここにいる誰も生き残れない」
翼を大きく広げ、雷鳴のような金属音がホールに響き渡る。
エネルギーの羽根は、一枚一枚が稲妻のように火花を散らしていた。
そして、ウェンディは跳んだ。
ダイヤモンド・タワーの窓を突き破り、煙に覆われた空へと舞い上がる。
その先に待つは、“エクリプス”の光。
彼女はためらわなかった。
決して避けられない未来に――止めるべき“運命”に、まっすぐ飛び込んだ。
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