表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/324

第22章 危険に直面した絶望

エラランの森に眠る遺跡は、沈黙を湛えていた。

だがそれは、自然な静けさではなかった。


それは――

悲劇の直前に訪れる沈黙。

見えぬ敵の重みを覆い隠すような、圧し掛かる静寂。


偵察任務のはずだったその道行きは、やがて――

死の罠へと姿を変える。


そしてその中で、無傷で帰れる者は……ひとりもいないかもしれない。

エラランの森は、蔓草に覆われた廃墟と古の巨木が深い静寂をまとい、まるで神々に忘れられた場所のようだった。折れた円柱や崩れた石壁は、長い年月を物語っている。鳥のさえずりも、獣の足音も聞こえない。ただ、風の音――そして、なにかの気配だけが漂っていた。


「おかしいわ」ケーブルの鞍から慎重に降りながら、アルウェナが低くつぶやいた。「斥候の話では、かなりの人数の陣営があるはずだった。でも――痕跡がまるでない。煙も声も影も」


リュウガは目を細め、魔導解析システムの警告ランプが微かに点滅しているのを感じた。「幻か、囮か……。気を抜くな」


王子は槍を構え、カグヤは指を固め、変身の構えを取った。緊張が空気をひんやりと染める。


――そのとき、悲鳴が森を引き裂いた。


「ぐあっ……!」


兵士の一人が膝を折り、鎧の金属音が墓場の鐘のように響く。リュウガは駆け寄り、背中に深々と刺さった矢を見て息を呑んだ。


「皆、伏せろ! 待ち伏せだ!」彼は全身で叫んだ。


一瞬後、黒い影が空を埋め尽くす――矢の嵐が襲い来る。


「オーロラの盾!」セレステが黄金の魔法結界を瞬時に展開する。


結界は一部を守ったものの、防ぎ切れず、数人が負傷。アルウェナの足下にも倒れた兵士の痙攣する体があった。


「木立だ! 包囲されている!」カグヤが叫ぶ。


王子とリュウガは武器を抜き構えた。アルウェナの声も鋭い。


「ただの山賊じゃない。見ろ――暗殺者の編隊だ!」


森の奥から、黒い装束に身を包んだ者たちが現れた。濃い影の中から、赤々と燃える瞳だけが浮かび上がる。彼らは数で、こちらは圧倒されつつあった。


「専門部隊だ……計画された襲撃だ!」リュウガの分析システムが赤く点滅する。


[分析:組織戦闘部隊 危険度――高]


「リュウガ、数が多すぎる!」セレステの声が震える。「陽動で守りを散らしている!」


「廃墟の中心へ! 円陣を組め!」アルウェナが指示を飛ばす。


「囲もうとしている……襲いの目的は殺戮以上だ」王子が槍で敵を止めながら叫ぶ。


そのとき、カグヤが羽化し、空から鋭い簇矢を浴びせる。リュウガは腕を廻し、火球を召喚した。


「メテオクラッシュ!」


小さな火の玉が宙を飛び、敵の塊を焼き尽くす――だが、次の波が押し寄せてくる。


無数の影が動き、数え切れない相手が姿を現す。かれらは――ハルクル(Harkr)だ。


「――Justiceを言い渡す!」


高台から現れたのは、暗黒の羽根と骨装飾を纏った男。その口端に冷笑を湛え、黒の冥刻が胸で不気味に輝いていた。


「これが、その“最初の幕”というわけか」


リュウガは歯を縛り、敵を睨む。


「俺たちが始めたわけじゃない」


「いや、おまえたちがここにいること自体が――──始まりだ」男が冷たく言い放ちたとき、敵が一斉に押し寄せた。


地を揺るがすほどの戦闘が始まる――熱と血の咆哮、鋼と樹木の衝突、闇の魔籠の叫声が折り重なる。


リュウガは炎をまとった剣閃で突撃し、一閃で三人のハルクルを焼き払った。「ファイアーソード!」


アルウェナは「クリムゾンライン」で閃光の軌跡を描き、王子は盾で隊列を守る。


カグヤはホークからスパイダーへ、そしてオルカへと変身を重ね、魔力を込めた攻撃で敵に切り込んだ。


セレステは破れた盾で守りながら、「ソニックマインダー」を二度唱え、衝撃波で周囲の敵を吹き飛ばす。


だが、戦況は悪化するばかり。ハルクルは数で逼迫し、兵士たちは疲弊――


――そのとき、森のはるか奥で動きがあった。


二つの影が霧の中から現れ、一振りで敵を射抜いた矢と、魔力で氷を呼ぶ軌跡が広がる。彼らは無言だが、圧倒的な戦力――アレンとネリアンだった。


「俺がAuren、こちらがNerianだ。邪魔はさせない」アレンの声は冷静で、しかし鋭かった。


ネリアンの槍が地を断つと、魔術師――“執行者”と呼ばれる存在――が弾かれるように後ろへ押し飛ばされた。


アルウェナが毒の矢に倒れる。リュウガは素早く駆け寄り、毒止めの薬球を処置する。


「置いて逃げるわけにいかない。生き延びて、戦うんだ」「お前が、俺たちの“剣”だからな」


治癒の薬で毒が引いていく。アルウェナが睨み返し、かすかに笑った。


「……お前、ただものじゃないな」


そしてアレンが言った。


「自己紹介はあとだ。だが忘れるな――これは“最初の警鐘”だ」


灰の中、血の臭いに浸された地面から、彼らは死屍累々の戦場を見据えた。


次に来るのは――全力の“嵐”だ。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


エラランの森に眠る遺跡は、沈黙を湛えていた。

だがそれは、自然な静けさではなかった。


それは――

悲劇の直前に訪れる沈黙。

見えぬ敵の重みを覆い隠すような、圧し掛かる静寂。


偵察任務のはずだったその道行きは、やがて――

死の罠へと姿を変える。


そしてその中で、無傷で帰れる者は……ひとりもいないかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ