第239章 ― 傷を燃やした名
衝突は避けられなかった。
武器が煌めき、魔法が炸裂し、ガレオンが横たわるクレーターの中で、正体も知らぬまま二つの勢力が命を賭けてぶつかり合っていた。
忍犬の姿となったカグヤは、四方八方から襲いかかる分身の雨を放ち、ヴォルテルの英雄たちを後退させた。
レンジは巧みに刀を振るい、いくつもの分身を鋼の閃きで斬り伏せる。
「お前たちは何者だ!」と怒声を上げる。
セレステは険しい表情で応え、緑と桃色に輝く鎧がその怒りを物語っていた。
「それはこちらの台詞よ。私たちのリーダーには誰一人、触れさせない!」
セレステのクリスタルとレンジの刀がぶつかり、夜空に眩い光が走った。
そのとき、氷のような声でセレステが問いかける。
「……どこの者?」
その沈黙を破ったのは、煙の中で息を切らすミユキだった。
「ヴォルテル王国の者よ!」
セレステの動きが一瞬止まる。その瞳が憎しみに染まり、身体から吹き出すエネルギーが荒波のように周囲を飲み込んだ。
「ヴォルテル……!?」
その叫びは空気を裂き、空間を揺らした。
「お前たちが……私の安らぎを奪ったのよ!」
レンジはその凄まじい力の変化を感じ、身構える。
「……どういう意味だ?」
だが、言葉を交わす暇などなかった。戦いはさらに激しさを増していく。
その混乱の最中、カグヤの一体の分身が粉塵に紛れて密かに動いた。
瓦礫の中に横たわるリュウガを見つけ、そっと抱き上げて戦場を離れていく。
その姿を、涙を浮かべた巫女が目にした。運ばれている身体に目を奪われ、唇から震えるように名前が零れ落ちる。
「……リュウガ」
ヴォルテルの英雄たちが、一瞬その名に凍りついた。
そしてその名を聞いたセレステは、憤怒と混乱の入り混じる視線をミユキに突き刺す。
すでに苛烈だった戦闘は、今――
さらに深く、個人的な闘争へと変わろうとしていた。
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