第232章 ― 救出部隊
通信機の沈黙は耐えがたいものとなっていた。ウェンディやアンドロイドたち、さらにはヴェルやリシアの呼びかけも虚しく、返ってくるのは雑音だけだった。ガレオンは沈黙し、リュウガは敵地のどこかで消息を絶っていた。
セレステは唇を引き結び、胸のクリスタルがくすんだ輝きで脈打っていた。
「じっとなんてしていられない。もしリュウガが傷ついているなら、一秒だって惜しい」
アンは拳を握りしめ、涙を堪えながら叫んだ。
「死なせない! いつも私たちを守ってくれる彼を……今度は私たちが連れ戻す番よ!」
緊張がその場を支配した。全員を危険に晒すわけにはいかないが、リーダーを帝国の手に渡すこともできない。
そのとき、カグヤが一歩前に出た。彼女の体を獣の影が覆い、変身が始まる。伸びた耳、夜のように黒い毛並み、光る牙。忍犬の姿が凛と浮かび上がった。
「私が行く。灰に覆われた戦場でも、匂いを辿れば見つけられる」
セレステは手を掲げ、その体が緑と橙の光に包まれる。鉱石の破片が彼女の鎧と融合し、“ウナキータ”──抵抗と調和のクリスタルの姿となる。彼女の目は宝石のように輝いていた。
「あなたが見つけてくれたら、私は彼を守る盾になる」
三番目に進み出たのは、狐の尾を持つ少女ハルだった。彼女は幻のように分身し、その尾が炎と風で弾けた。
「私は囮になる。もしヴァルダーや皇帝に遭遇したら、たとえ命を落としても、リュウガには指一本触れさせない」
ウェンディは唇を噛みしめた。行きたかった。でも負傷者を安定させる役目が彼女にはあった。
「お願い……彼を連れて帰ってきて」
セレステは優しく微笑みながら、そっと彼女の肩に手を置いた。
「必ず。彼にはまだ果たすべき運命がある……ここで終わる男じゃない」
救出部隊は静かに出発した。煙と炎の中へと足を踏み入れる。イアト軍の太鼓と巨獣の咆哮が遠くで響いていたが、彼女たちの足を止めることはなかった。
三人は慎重に、だが確固たる意志で進んだ。
裂けた空の下──どこかで、リュウガは発見されるのを待っている。
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