第229章 ― イアト帝国の待ち伏せ
エクリプスの咆哮の余韻が空気に漂う中、ダイヤモンドの塔は傷を負いながらも、なお立ち続けていた。
一方、イアト帝国の陣営では、空気が溶けた鉄のように重く張り詰めていた。
将軍ヴァルダーは視覚結晶を通して塔を見つめていた。彼の目は氷の刃のように冷たかった。
「…見事だ」
「想像以上に持ちこたえた。だが、それは勝利を意味しない」
その隣には皇帝が立ち、塔のかすかな輪郭をじっと見据えていた。
その声は静かで重く、だが内には脅威を孕んでいた。
「まだ立っている……ということは、我らが壊しきれていないということだ」
エクリプスの魔力を制御する大魔導士アルカニスが苛立った様子で杖を振り上げた。
「なぜ全軍を動かさぬのです? エクリプスは何度でも撃てるのだ! その砦など、夜明け前に灰にできますぞ!」
ヴァルダーは軽蔑のこもった目でアルカニスを見た。
「お前は力の使い方しか知らぬ子供だな。エクリプスは無意味に振り下ろすハンマーではない」
皇帝はゆっくりとアルカニスへと顔を向けた。
その瞳は、まるで業火のように赤く燃えていた。
「まだその時ではない。あの一撃で奴らは充分に動いた。
今や彼らは戦力を分散し、あちこちで無謀な任務に奔走している……その時こそ、罠にはまる時だ」
アルカニスは眉をひそめた。
「罠、とは?」
ヴァルダーがうなずいた。
「そうだ。奴らが使おうとしている“秘密の通路”――我々はすでに掴んでいる。
やつらが中に入ったら最後……闇と鋼鉄に閉ざされたその場所で、ネズミのように逃げ場を失うだろう」
皇帝が手を掲げた。
その合図と共に、帝国の旗が不吉に風にはためいた。
「全軍、配置につけ。第二のエクリプスが放たれる時――やつらは、もう逃げられぬ」
ヴァルダーの口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。
それは冷酷で、勝利を確信する者の表情だった。
「今日示した抵抗など……奴らの絶望をより深くするだけの前座に過ぎん」
そしてその頃、ダイヤモンドの塔の下――
アイオ、ヴェル、リシア、ヴィオラは知らぬまま進んでいた。
その一歩一歩が、彼らを“仕組まれた死地”へと近づけているとも知らずに――。
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