第227章 ― ヴォルテルの誓い
エクリプスの砲撃の轟音は、ヴォルテル軍の陣営にまで届いていた。
黒い柱が空を貫くのを目の当たりにし、砦の壁は揺れ、
何人もの兵士がその恐怖に言葉を失った。
即席で設営された司令本部の中央、
日本から召喚された若き英雄、高原レンジは、
固い表情のまま立ち上がった。
黒曜のような髪が風に舞い、その瞳には――恐怖ではなく、
決意が燃えていた。
「――あの砲が再び放たれたら……
俺たちの神ですら、もう守れないかもしれない。」
その隣で、巫女装束の白沢ミユキが、胸元に杖を抱えた。
白い法衣は土埃に汚れ、琥珀色の瞳が震えている。
「……あれは、もう“力”とは呼べない。人の域を超えてる……」
一方、屈強な体格を持つ剣士、ダイチが地面をカタンと刀で叩いた。
「なら、壊すだけだろ。
俺たちは“女神に選ばれた英雄”だ。
黙ってるなんて、性に合わねえ。」
ヴォルテルの将校たちは顔を見合わせ、不安げに囁いた。
「……エクリプスを直接攻める?
そんなの……自殺行為だ!」
だがレンジは首を振った。
「いいや。本当のチームとして動けば、不可能じゃない。
俺たちは女神に選ばれたんだ。
希望をもたらすために――
壁の裏に隠れるためじゃない。」
彼はクラスメイトたちの方を見て、ゆっくりと言葉を続けた。
「この世界で一緒に訓練してきた。
戦い方も、癒し方も、耐え方も学んだ。
今こそ、ただの“迷子の学生”じゃないと証明する時だ。
――俺たちは、本物の英雄だ。」
ミユキが口を開こうとして、声を詰まらせた。
「レンジ……あなたが倒れたら、私……きっと耐えられない……」
レンジは、かすかな微笑みを浮かべた。
日本での幼い日々を、ほんの一瞬思い出しながら。
「倒れないさ。
お前とここまで来れたんだから――
もう、立ち止まる理由はない。」
その時、一人のヴォルテルの隊長が前へ出た。
地図を広げながら説明する。
「帝国イアトがあの砲を操っているのなら、
魔力供給線を断つしかない。
西の側面に、魔法使いたちの儀式陣を確認した。
あれを潰せば、エクリプスの再装填が倍は遅れる。」
レンジは深くうなずいた。
「なら、作戦は決まりだ。
一つの部隊は後方支援と増援の足止め。
主力は魔法使い陣を叩く。
――他国が俺たちを信じようが信じまいが関係ない。
俺たちが、この戦場に風穴を開ける“槍”になる!」
その言葉に、仲間たちは次々と武器を掲げ、応えた。
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