第223章 – 闇の中の光
エクリプスの砲撃音が空に消えても、その余韻はまだ地を震わせていた。
ダイヤモンドの塔の一角が崩壊し、空気には血と灰、そして絶叫が満ちていた。
瓦礫の下には騎士たちが倒れ、魔力の衝撃で焼かれた兵もいた。
天上の輝きを誇っていたパティオ・セレステは、まるで地獄と化していた。
そんな混沌を切り裂くように――一つの声が響く。
「――耐えて! ここで死なせたりしない!」
声の主はウェンディ。
その炎の翼をたたみ、即席の治療バッグを持って、負傷者の間を走っていた。
その手は震え、顔はすすと汗で汚れていたが、瞳だけは強く燃えていた。
彼女の隣にいたのは、青空のような髪を持つアンドロイド、アズ。
その両手は変形し、手術用スキャナ、エネルギー注射器、治療用フィールド発生器に切り替わっていく。
「医療ユニット、起動中。重症者を優先します。」
ウェンディは片膝をつき、瓦礫の下にいた若きエレオノールの騎士を見下ろす。
その片足は潰れており、血が止まらなかった。
「動かないで、すぐ楽にするから。」
彼女はリュウガの開発したプリズム治癒薬の小瓶を取り出し、患部に塗布する。
薬が光り、肉体が少しずつ再生していく様子を見守りながら、正確な圧力で包帯を巻いていく。
「私、これ…ちゃんと学んでたの。戦うだけじゃない。助けることも、私の力なの。」
騎士の目に涙が浮かぶ。
「あなたは…天使ですか…?」
ウェンディは笑った。血と塵にまみれながらも、希望のように。
「違うよ。私は…仲間を見捨てないと決めた人間。」
一方、アズは片手で梁を持ち上げ、下にいた兵士を引っ張り出す。
「救助完了。肺に魔力の煙が。プリズム換気開始。」
兵士の胸に治療装置を設置すると、青い脈動が放たれ、兵士が激しく咳き込みながらも息を吹き返す。
ウェンディが息を切らせながらアズに微笑む。
「アズ、ありがとう…一人じゃ無理だった。」
アズの瞳が一瞬、通常よりも強く輝く。
「命を救う。それが私に与えられた最優先命令です。必ず果たします、ウェンディ。」
その時、リュウガが現れる。
傷ついた兵士を抱えて、避難テントへと運ぶ途中だった。
その目に映ったのは、傷ついた少女が命をつなぎ止める姿と、無機質でありながら限りなく人間的なアンドロイドの献身。
そして――彼の表情に、わずかな笑みが浮かぶ。
「命をつなぐ手がある限り…この戦争に、まだ敗北はない。」
その言葉が伝わったかのように、叫び声は次第に静まり、
代わりに深い呼吸と安堵の声が広がっていく。
そして誰もが、忘れかけていた事実を思い出した。
――この戦場にも、まだ“光”がある。
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