第215章 ― 塔の準備
イアト帝国の戦太鼓の反響が、ダイヤモンドの塔の水晶の壁まで届いていた。
空気は張りつめていた。
兵士一人ひとり、アンドロイドの侍女たち、そしてすべての同盟者たちが、
迫りくる運命の重みに耐えながら、地平を見つめていた。
塔の中枢、指令の間では、リュウガがプリズム状のクリスタルに投影された戦術地図を見つめていた。
彼の傍らには、アルタ王子、ヴェル、セレステ、そして仲間たちが命令を待っていた。
突如、一つのクリスタルが強い光を放ち、輝いた。
そこに現れたのは、エレオノーレ王国の威厳ある王の姿だった。
その隣にはカエラン王子、そして軍師アルウェナの姿もあった。
王の重厚な声が響く。
「リュウガよ、エレオノーレの軍勢は準備が整っている。
騎士団、弓兵、魔導砲部隊がそなたの元へ向かっている。
あとは展開に適した場所さえあればよい。」
リュウガは目を細めたのち、アルタ王子へと視線を向けた。
「王子、この塔の内部に、大型の砲台と部隊を配置できるような、
広く、かつ強化された空間はあるか?」
アルタは思案顔でうなずいた。
「ある。第二防衛層にある“蒼天の中庭”だ。
古代のルーンで強化された広大な空間で、包囲戦を想定して造られている。」
リュウガはテーブルを力強く叩いた。
「よし。ではそこで増援を迎えよう。」
ヴェルは喜びを隠せず、興奮で声を震わせながら笑った。
「ってことは、エレオノーレと肩を並べて戦えるんだな!」
クリスタル越しに、アルウェナが静かにうなずき、紫の瞳をリュウガに向ける。
「ならば、我らの戦術は完全に共有されることになる。
——一つのミスも許されない。」
リュウガはその視線を受け止め、揺るぎない声で答えた。
その姿に、歴戦の者でさえ息をのむほどの威厳があった。
「ミスは起こさない。
この戦場を——帝国が決して忘れられぬ地にしてやる。」
クリスタルが静かに光を消し、
再び部屋には、青白く輝くダイヤモンドの壁の光だけが残った。
ウェンディが槍を支えながら、深く息をついた。
「これはもう、防衛戦なんかじゃない……
全面戦争だ。」
リュウガは全員に向き直り、
その声は澄みきっていながら、全員の胸に響き渡った。
「だからこそ、全力で戦う。
なぜなら、塔が落ちれば——
笑うことも、夢を見ることもできる世界は、もう残らないからだ。」
その言葉が、静寂を決意へと変えていった。
そしてその時、遥か遠くから〈破滅の巨像〉の咆哮が、また一歩、近づいてきていた。
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