第213章 ー 遠き影
ダイヤモンドの塔の高層プラットフォームのひとつから、リュウガは探索用クリスタルを調整していた。
空気はオゾンの匂いを帯びており、遥か遠くで〈破滅の巨像〉が放ったエネルギーによって、周囲は微かに震えていた。
そこに——それはあった。
〈破滅の巨像〉。ゆっくりと、だが確実に進むその足取りは、大地を砕きながら塔へと迫っていた。
中心の紅い眼が空を裂くたび、雷光のような一閃が走る。
その距離にもかかわらず、振動は塔の足元にまで届いていた。
ウェンディは歯を食いしばり、全身を震わせた。
「な……なにあれ……一体何なの……?」
隣ではヴェルが視線を逸らさずに答える。
「生物じゃない。……兵器だ。
戦争のためだけに作られたものだ。こんなの、歴史のどこにも存在しなかった。」
リュウガはすぐには返事をせず、クリスタルをさらに調整し、帝国軍の最前線に焦点を合わせた。
そこに、立つ影があった。
漆黒の鎧を纏い、その身からは闇の気配が漂っていた。
背後には黄金の鴉が描かれた軍旗が翻り、
その傍らには、やや背の低いが同じく威圧感を放つ将が、部隊に指示を与えていた。
アルタ王子が眉をひそめた。
「……あの二人、何者だ?」
リュウガは一瞬目を閉じ、静かに答えた。
「もしこれが軍の先鋒なら、あれは指揮官だ。
……名は知らなくても、見ればわかる。」
マグノリアが、いつもながらの冷静な口調で呟いた。
「先頭の男……ただの将軍じゃないわ。ここからでも感じる。あの異様な圧。」
アンは唇を噛みしめ、険しい表情で言う。
「誰であれ、あんな怪物を操ってるのなら……敵でしかない。」
リュウガはクリスタルから視線を外し、深く息を吐いた。
〈皇帝ヴァルセリオン〉の名も、〈将軍ヴァルダー〉の名もまだ知らぬままだった。
だが——その気配から伝わってくるものは、他とは違っていた。
「名はわからない……」
彼は力強く言った。
「だが、わかることはある。
奴らがここにたどり着けば、塔は終わる。
——俺はそれを、絶対に許さない。」
その言葉は、まるで火花のように全員に伝わった。
セレステは淡く輝く結晶の髪をなびかせながら、ほろ苦い笑みを浮かべた。
「なら、教えてあげましょう。
この世界のすべてが……簡単には屈しないってことを。」
遠くで〈ガレオン〉が咆哮を上げ、戦闘準備を整えていた。
そして地平の向こう、黄金の鴉がはためくその下で、
敵は着実に進軍を続けていた——自らがすでに、誰かの視線に晒されていることも知らずに。
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