第208章――光と鋼
夜明けが地平線を緋色に染める頃、イアト帝国の兵士たちの隊列が平原を進んでいた。黒い軍旗がカラスの翼のようにはためき、金属の鎧が雷鳴のように轟いた。
タクミと仲間たちは近くの丘からその様子を見下ろしていた。冷たい風が彼らの顔を叩く。
「女神の言った通りだ……」ハルトが眼鏡を押し上げながら呟いた。「この前衛部隊は大規模ではないが、軽装砲を装備している。このまま通せば、ヴォルテルの南側から回り込まれるぞ。」
タクミは拳を握りしめた。数週間前、祭壇でヴォルテルの女神が語った声を思い出す。
「イアト帝国は無敵ではない。その隊列は重く、指揮官たちは傲慢だ。観察し、待ち、そして正確な瞬間に打て。」
深く息を吸い込んだ。
「ならば、その時は今だ。」
帝国の前線部隊は抵抗を予期していなかった。
だが、閃光のように、リクが丘から雷のごとく駆け下り、紅の光を反射する刀を振るった。
「――半月斬り!」
剣から放たれた波動が空気を裂き、最前線の兵士の鉄の盾を粉砕し、彼らを宙へと吹き飛ばした。
タクミはその後を追い、護符の力を呼び起こした。胸に刻まれた「守護」の文字が炎のように燃え上がり、仲間たちを包むエネルギーのフィールドを形成する。
「――全域防御結界! ここでは誰一人倒れさせない!」
イアトの魔導士たちが呪文を唱え始めたが、ハルトは魔導書を掲げ、空中に紋章を描いた。
「――秘術偏向!」
魔法の弾は軌道を逸れ、空中で爆発した。ハルトの唇に誇らしげな笑みが浮かぶ。
「女神は言ったんだ。奴らの魔法には傲慢が宿っている……必ず隙がある。」
戦場の中央では、帝国の槍兵たちがアヤネを取り囲んでいた。彼らはその法衣を見て、容易い標的だと高をくくっていた。
アヤネはそっと目を閉じ、祈りを捧げる。その杖の水晶が純白の光を放つ。
「――聖炎の祈り!」
彼女の手から放たれた光の波が、槍を浄化し、周囲の兵士たちの力を奪う。彼らは武器の重さに耐えきれず、膝をついた。
アヤネは目を開き、その青い瞳が夜明けの空のように燃えていた。
「私は、帝国に微笑みを奪わせはしない。」
タクミ、リク、ハルト、アヤネは戦場の中央に集結し、揺らめく敵に囲まれる。空気には鉄とオゾンの匂いが満ちていた。
タクミが声を上げる。
「俺たちは、ヴォルテルの女神に召喚された英雄だ! この地を、イアト帝国には渡さない!」
帝国兵たちは動揺し、恐れが影のように彼らの中に広がっていく。数人が後退を始めた。
リクは剣を地平線に向け、アヤネは杖を掲げ、ハルトは魔導書を開き、タクミは胸の護符を燃え上がらせて一歩前へ出る。
戦いは始まったばかりだったが、すでに明白だった――
女神の知恵と、四人の日本人の覚悟が、戦争の運命を変え得ることを。
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