第205章 -- 異世界の英雄たち
夜が平原を覆い、星々が空にちらついていた。
ヴォルテル王国の野営地には張り詰めた沈黙が流れていた。
セレンとエルリアが戻らなかったという報せは、兵士たちの心に鉛のような重みを落としていた。
ある者は祈り、ある者は不安を口にした。
「まさか…塔で倒れたのか?」
「あの二人でも敵わなかったなら…俺たちに何ができる?」
その時、静寂を切り裂くような、はっきりとした声が響いた。
「彼女たちが戻らなかったからといって、すべてが終わったわけじゃない。
今度は、俺たちが進む番だ。」
皆が一斉に振り返った。
そこに立っていたのは――
星沢 拓海
18歳の日本人少年。
乱れた黒髪に、まっすぐな茶色の目をした青年。
軽装の鎧に、くたびれたスニーカーと学ランを羽織り、首には「守護」と刻まれたお守りがぶら下がっていた。
だが、彼は一人ではなかった。
▫️ 異世界に召喚された日本人たち:
葉山 陸
拓海の親友。
茶髪に自信満々な笑み、軽快な口調が特徴の剣士。
現代と戦国を融合させたようなスタイルの鎧を着ていた。
「またお前がヒーロー役かよ、拓海。
でもまあ…仕方ねぇ、背中は任せろ。」
藤本 綾音
長い銀髪に深い青の瞳を持つ巫女。
金糸が刺繍された白い法衣を纏い、手には淡く光るクリスタルの杖。
「絶望に飲まれないで。
私たちが心を合わせれば、必ず道は開けます。」
水無瀬 陽翔
無口で冷静なメガネの天才魔導士。
彼の指先は常に魔法陣を描いており、その視線は敵を見通すように鋭い。
「帝国は無敵じゃない。ただの人間さ。
戦術さえ正しければ、突破できる。」
ヴォルテルの兵士たちは、彼らを異国の者として半信半疑の目で見ていたが――
その瞳の奥に光る意志に、希望を感じずにはいられなかった。
拓海は拳を握り、遠くに見えるダイヤの塔を指差す。
そこには、煙に包まれた帝国軍の影があった。
「あそこが俺たちの行くべき場所だ。
セレンやエルリアにはなれなくても…
今こそ、ヴォルテルが必要とする“光”になろう。」
綾音は杖を地面に突き立て、癒しの光を兵士たちに送る。
「では誓いましょう。何があっても――一緒に辿り着くと。」
陸は肩に剣を乗せて笑う。
「死ぬ時は、お前が先じゃねえぞ、拓海。」
陽翔は静かに眼鏡を押し上げて、短くうなずく。
「僕もだ。」
拓海は3人を見回し、心から思った。
「俺は、一人じゃない。
日本から引き裂かれても…
この世界のために、“俺たち”が戦う。」
そして、彼らは歩き出した。
星の下を――
ヴォルテルを背にし、ダイヤの塔へと向かって。
異世界に誓われた友情と運命の物語が、今…交差しようとしていた。
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