第203章 ― 侵攻命令
イアット帝国の要塞は、鉄と意志によって燃え上がっていた。
黒い石で築かれた作戦室には、松明と地図が灯り、空気は油と命令の匂いで満ちていた。
即席の玉座に座すは、ヴァルダー将軍。
その瞳は熾火のように燃え、冷酷さを湛えていた。
金属音が響き、報告に来たのは打ち砕かれた鎧を着た男――ヴァロク司令官。
その目は敗北を物語っていた。
「…戻りました、将軍。ですが……守護者がそこにいました。
突破できず、我らは…多くを失いました。」
ヴァルダーは驚きを見せない。
ゆっくりと立ち上がり、その一歩一歩が死刑宣告のように響く。
「損失…か。」
その言葉を噛み締めるように繰り返した。
「…どれほどだ?」
ヴァロクの喉が上下する。
重い鎧の指がわずかに震える。
「甚大です。
《塔》は守られていました。
名は……リュウガ。彼が我らの先陣を封じました。」
静寂が、石の壁にまで染み込む。
そして次の瞬間。
ヴァルダーは迷いなく、ヴァロクの首を掴み、宙に持ち上げた。
「貴様は…我に敗北をもたらした。」
裁判も、慈悲もなかった。
乾いた音と共に、ヴァロクの命は尽きた。
その血が黒い大理石に染み、警告の印となった。
誰も動かない。
息を止め、震える者すらいた。
ヴァルダーはそのまま周囲を見渡し、一人の若き兵士を指さす。
「お前。名は?」
「ダリウス中尉であります、将軍。」
その声は鋼の如く真っ直ぐだった。
ヴァルダーは頷き、宣言する。
「今日より貴様は『ダリウス司令官』だ。
ヴァロクは帝国の意志を示せなかった。
だが貴様にはできる。任務は一つ――
《ダイヤモンドの塔》を侵略せよ。
奪うか、瓦礫と共に持ち帰れ。」
ダリウスは一瞬だけ動揺したが、すぐに姿勢を正した。
「了解、将軍。必ずや、任を果たします。」
ヴァルダーの声はさらに鋭くなり、まるで死神の鎌の如し。
「聞け、司令官。
遊撃ではない。
これは総力戦だ。
重装砲、突撃装甲、魔術破壊部隊を編成しろ。
北からは破城兵器、氷河を通っての速攻部隊、
そして…奴らが最も油断する地点からの奇襲上陸だ。」
将軍たちは即座に動き出した。
ラッパが鳴り、兵器庫が開かれる。
鎖が鳴り、火薬と鉄が磨かれ、軍旗が掲げられる。
ダリウスは任務の重みを背負いながらも、
その目はもはや平凡な将校ではなかった。
伝説に挑む者の目だった。
ヴァルダーは作戦地図に目を落とし、
手袋をはめた指で《塔》を示す。
「ここ、そしてここを押さえろ。
あの塔の核を、我らのものとするのだ。」
風が戦太鼓を運び、伝令が走る。
牙のような兵器が磨かれ、炎のような意志が燃え広がる。
イアット帝国はもはや静観などしていない。
侵略するのだ。
ヴァルダーは静かにその様子を見つめながら、
冷たい声で、まるで勝利をすでに味わうかのように呟いた。
「塔はイアットのものとなる。
その道を阻む者は…すべて、粉砕する。」
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