第202章 ― 視線の重み
廊下の扉が震えた。
イアット帝国の兵たちの間にざわめきが走る。
その直後、金属の足音が静寂を引き裂いた。
現れたのは、黒い鎧に金の紋章を纏った巨大な男。
イアット帝国の《壁砕き》と呼ばれる将軍、ヴァロク。
彼が引きずる大剣は、まるで人ひとり分の長さ。クリスタルの床に火花を散らす。
「貴様がリュウガか…」
その声は低く、まるで獣の咆哮のようだった。
「帝国は貴様の首を掲げるため、俺を送り込んだ。」
リュウガは一歩も動かない。
そのマントは静かに揺れ、瞳は《視界》の力で光を放っていた。
「この廊下は、貴様の進軍を許さない。
無理に通ろうとすれば、誇り以上のものを失うことになる。」
ヴァロクは喉の奥で笑い声を上げた。
「ほう、坊や一人が軍に勝てるとでも?ならば…見せてみろ!」
咆哮と共に突進し、大剣を振り下ろす。
リュウガは片手を上げ、魔法陣を展開。
その一撃を軽々と受け止めた。
そして、指を一つ鳴らすと――
鋭いエネルギーの斬撃が放たれ、ヴァロクの兜が真っ二つに割れた。
「なっ…!?」
ヴァロクがよろめく。
信じられないという顔。
リュウガは一歩前に出た。
声は氷のように冷たく、鋭い。
「貴様の動きも、弱点も…すべて視えた。
俺が命じれば、お前の軍は一分ももたない。」
彼の周囲の空気が刃のように張りつめた。
その視線だけで、まるで千の槍に貫かれるような錯覚。
兵士たちが怯えて後退を始める。
「ぐっ…これは…まずい…」
リュウガはそれ以上攻撃しなかった。
ただ、見据えるだけ。
だが、その視線こそ、最も恐ろしい武器だった。
「戻れ。皇帝に伝えろ。
これ以上兵を送れば…次は、俺がそちらへ行くと。」
ヴァロクは唸るように悔しさを吐き出しながら、軍を退却させた。
敗北。否、屈辱。
二度と忘れぬ屈辱となる。
リュウガは手を下ろし、視界の光を閉じた。
「殺すまでもない。
恐怖の方が、死よりも明確な"警告"になる。」
廊下には静寂が戻る。
そして、その瞬間。
《ダイヤモンドの塔》は――
一人の男の視線だけで、守られた。
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