第18章:王冠の残響(おうかんのざんきょう)
王権の光はまばゆいほどに輝く…。
だが、たとえ宮殿の中心であっても――
古の残響をささやく影が、ひっそりと潜んでいる。
エレオノール城は、浮遊する魔法の光でまばゆく輝いていた。
東の翼廊では、侍従たちが夜会の準備を進めていた。鏡張りの壁、生きた柱、そして天井には、魔法で投影された星座が、晴れた夜空のように踊っていた。
宴の前、一行には儀礼用の装いが渡された。強制ではなかったが――誰も、場違いにはなりたくなかった。
控えの間
セレステは鏡の前で、金の刺繍が施された緋色のドレスと浮遊するマントを整えていた。
「……ちょっと、豪華すぎない?」
黒のドレスに銀の龍が舞う衣装を身にまとったカグヤが微笑んだ。
「大事なのは、リュウガがワインに負けずに済むかよ。」
アンとイオは、ベージュと空色の双子ドレスを着ていた。無垢でありながら、どこか幻想的。
クロは、深紅を帯びた黒の礼装に身を包み、無言のまま鋭い眼差しを宿していた。
リュウガは、ルーンが刻まれた黒の礼服で短く言った。
「――準備はいいか。」
深く息を吸い、一同は進んだ。
水晶の大広間
貴族たち、魔法楽団、空に舞う噴水――そして幸福の記憶を宿す芳しいワインの香りに包まれた会場。
女王イゼルダが、天の杯を掲げた。
「本日、我が娘の帰還、そして不可能を可能にした者たちを讃えましょう。」
リュウガ、セレステ、カグヤ、リシア、クロ、アン、イオは、名誉の席に案内された。
ヴェルミラが微笑む。
「エレオノールの名が、歴史に刻まれますように。」
作戦室
プリンセス・エリラが一行を個室に案内した。空中に浮かぶ地図には、赤と黒の線でルートが示されていた。
「この派閥“フルクル”は、小国ばかりを狙い、的確かつ残酷に攻撃してきます。」
「冒険者たちは?」とセレステが尋ねた。
「帰還する者もいます……が、その姿は変わっています。ゾンビではなく――
意識を持った“兵器”。記憶が壊れ、叫ぶ武器となって。」
「ネクロレイザー…」カグヤが低くつぶやく。エリラは深刻な面持ちでうなずいた。
「身体は名前を覚えている。笑い、感情を持つ…それでも殺す。」
リシアが入ってきた。目は震え、声は低く。
「私の名前を呼びながら……心臓を抉ろうとした。」
「ならば――」とリュウガが地図を指差した。
「次の目標は決まった。」
「――“血の要塞”です。」とエリラが答えた。
月下のバルコニー
セレステが静かに夜の街を見つめていた。リュウガがそっと隣に立つ。
「やっぱり…立ち止まるべきじゃなかった、と思ってるの?」
「いや…だがこの場所は、何かが崩れ落ちる前兆を感じる。」
セレステは微笑む。
「なら…その“崩れ”に耐えられるまで、ここにいて。」
だが――
屋根の影から、それを見つめる影があった。
人ならぬ者。音もなく。気配もない。
非公式の宴 ― 水晶の間
アメジストのドレスに星座を描くような魔法が煌めくヴェルミラ。
柱のそばで、甘いネクターを手にしていた。
そこへ、三人の貴族が近づいた。
傲慢、贅沢、そして…危険な香り。
そのうち一人が、彼女の手首を掴んだ。
「“ノー”なんて言葉、王女様が口にするのは…魅惑的だが、無礼でもある。」
その瞬間――
別の手がその男の腕を押さえた。
リュウガ。
黒い礼装。鋭い視線。
握った拳は、関節が音を立てた。
「彼女は、断った。」
「お前、誰に口きいてるか分かってるのか?追い出してやる!」
「“ソーラーハウス”の坊か?…輝いてるが、暖かくもないな。」
緊張が走る。
リュウガは、その男を一撃で吹き飛ばした。
空の袋のように、床へ倒れ込んだ。
「“ノー”が聞こえない者に追放されるなら…それは名誉だ。」
王室の介入
「――やめなさい!」
雷のような声が響いた。
皇太子カエラン・エレオノールが、まるで一閃のごとく現れる。
「これが王女と、名誉ある来賓に対する態度か?」
貴族たちはうろたえる。
「……沈黙。」
その一言で場が凍った。
カエランはリュウガを見た。
「君の行動は正当だ。真の騎士道を思い出させてくれた。」
三人の貴族は、王宮の社交界から永久追放された。
「次は――」
カエランは静かに言った。
「もう少し深く傷を刻んでも構わない。」
リュウガは無言でうなずいた。
ヴェルミラは、微かに吐息を漏らしながら、そっと彼の腕に寄り添った。
そして――
音楽が再び響き始めた時、
魔法の光がまた、優しく空間を包んだ。
光に満ちた城であっても、影を落とさずにはいられない。
そして――リュウガは今、
**エレオノールの“隠された心臓”**に、着実に近づいている。