第193章 – 約束の代償
ダイヤモンドの塔の中核は、まるで生きているかのように脈打ち、空間全体をエネルギーで満たしていた。
「イアット帝国」「ヴォルテル王国」、そして「未知の存在たち」――すべてが、この塔を目指して迫ってくる。
警告の残響が、全員の脳裏に響いていた。
その場の空気は、あまりにも重苦しく、誰も口を開けなかった。
最初に沈黙を破ったのはリュウガだった。
一歩前に出ると、その視線をまっすぐ王子に向けた。
「つまり、鍵は最初からお前が持っていた。そして今…お前のせいで、全ての敵に我々の存在が知られた。」
アルサ王子は眉をひそめたが、反論はしなかった。
リュウガは続けた。その声は鋼のように重く、鋭かった。
「報酬を与えると言ったな。それは受け取る。だが…俺たちにこの塔を守らせるつもりなら、イアット、ヴォルテル、東から来る“何か”を相手に戦わせるつもりなら――」
彼は塔の核を指差した。
「その代価は、さらに重くなる。」
その言葉に、仲間たちの息が止まった。
アンは驚きに目を見開いた。
「リュウガ…今そんな交渉を?」
だが彼は目を逸らさず、真っ直ぐに言い切った。
「これは遊びじゃない。俺たちが戦うなら、最後までだ。
もし失敗すれば、この塔は間違った手に落ちる。…全員、それを分かっているはずだ。」
グレイオは静かに唸り、力強く頷いた。
「その通りだ。戦には、それ相応の報いが必要だ。」
アルサ王子は、胸に輝く遺品のペンダントに手を置き、深く息を吸った。
やがて、ゆっくりと頭を下げる。
「分かった。生きてこの戦を終えたなら――私の名と王冠に誓って、約束以上の報酬を与える。
金銀や土地だけではない。…歴史に名を刻む栄光を。」
彼の視線は、まっすぐリュウガに重なった。
「だがその代わり…君たちの全力を貸してほしい。来たる戦いは、我々全てを押し潰す力を持っている。」
重い沈黙のあと、仲間たちの間に覚悟のような囁きが広がっていった。
ウェンディは太陽槍を握り直す。
「戦うなら、本気で行くわよ。」
クロは白の杖を構え、静かに呟く。
「影は、準備万端。」
セレステは瞳を閉じ、胸元のプリズムを震わせる。
「私たちの信念が、試されるときね。」
ブルナは床を力強く踏み鳴らした。
「来るなら来いっての!数なんか関係ねぇ!」
ハルはしっぽを揺らし、笑みを浮かべる。
「面白くなりそうだな。」
そして、リュウガは再び塔の核を見上げた。
それはまるで、彼の決意に呼応するかのように脈動していた。
「――いいだろう。」
重く、しかし揺るがぬ声で言い放つ。
「俺たちは退かない。だが忘れるな、王子。約束したんだ。これが終わったら…後戻りはできない。」
アルサは深く頷いた。
「誓おう。」
塔の光がまた一度、強く瞬いた。
その輝きの中で、全員が同じことを理解していた。
――次の戦いは、彼らの全てが試される“本番”。
迷いや弱さの入り込む余地はない。
ダイヤモンドの塔は、今まさに彼らの「本当の力」を試そうとしているのだった。
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