第192章 ――王子の鍵
《ダイヤモンドの塔》の内部に漂う沈黙は、まるで聖域そのものだった。
神器たちは水晶のエネルギーに浮かび、星のように煌めいていた。
そのとき――王子アルタが一歩前へ出た。
彼は両手で、胸元から古びたロケットを取り出した。
その中には、ひし形の小さな宝石が埋め込まれていた。
「これは……」
わずかに震える声で語り出す。
「母が亡くなる前に託してくれた鍵だ。
彼女は言っていた……この塔に辿り着いたとき、君たちを信じて“道を開け”と。」
ロケットが塔の壁に近づくと同時に、輝きが走った。
轟音が鳴り響き、塔の壁が生き物のように振動し始めた。
青いルーン文字が次々と浮かび上がり、光の川となって全体を走っていく。
そして、中央から結晶でできた“心臓”のような核が浮かび上がった。
そこに、全方位から響くような深く神秘的な声が鳴り渡る。
「――《ダイヤモンドの塔》システム、起動。
正統なる鍵を確認。
血統の後継者よ、ようこそ。」
その場にいた全員が、息を呑んだ。
だが――次に続いた言葉は、全員の血を凍らせた。
「――警告。複数の敵対存在を確認。
南方:帝国イアトの軍勢、接近中。
西方:ヴォルテル王国の部隊、接近中。
東方:未分類の異常反応、接近中。
――脅威レベル:臨界。」
広間に、死のような沈黙が落ちた。
アンが歯を食いしばる。
「……塔のシステムが発信したのね。もう、ここにいることがバレた……!」
グレイオが地面を拳で叩いた。
「ちくしょう……せっかくの優位が、いまや首を絞める鎖とはな!」
ウェンディが王子を睨むように問い詰めた。
「……なんで鍵のこと、黙ってたの?」
アルタはロケットを強く握りしめ、静かにうつむいた。
「……話せなかった。誰かに漏れれば、ここに来る前に奪われていたかもしれない。」
そして顔を上げ、その目に強い覚悟を宿らせて言った。
「でも誓う。この力は、我が国のためだけに使わない。
すべてのために使う。――たとえ、いまが最悪の状況でも。」
リュウガが一歩前に出る。
塔のエネルギーに揺れるマントが、彼の決意を象徴するかのようだった。
「もう選択の余地はない。
帝国、ヴォルテル、そして“東”の得体の知れない何か。全員がこっちに来る。」
彼の瞳が、光の中で鋭く輝く。
「ならば――この塔を、“戦場”に変えてやる。」
塔の中心核が脈打ち、神器たちが共鳴するように震え始めた。
まるで、長き眠りから目覚める神々のように。
安息の時間は終わった。
《ダイヤモンドの塔》は目を覚ました。
そして今や、全ての敵がそれを知っている。
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