第190章 ――冬と鉄の対決
イアト帝国の軍勢が、漆黒の染みのように山岳地帯を進軍していた。
赤と金の旗が激しい風に翻り、やがて自然そのものが敵へと姿を変えた。
氷嵐が襲来したのだ。
地面は氷の結晶となり、吹雪が道を消し去り、山は突然の雪崩を吐き出した。
兵たちは呪詛を吐き、馬は恐怖にいななき、戦機械は雪に沈んで悲鳴のような軋みを上げる。
「ヴァルダー将軍!」
一人の隊長が腕で顔を覆いながら叫んだ。
「このままでは軍が持ちません!」
将軍ヴァルダーは、風に翻るマントをなびかせながら、剣を雪に突き立てた。
その金の眼には怒りが燃えていた。
「……貴様、イアト帝国が“少しの寒さ”に敗れるとでも言うのか?」
一瞬の沈黙。
その後、雷鳴のような声で叫んだ。
「我らはこの世界の“炎”だ!氷など我らを止められぬ!前進せよ!」
その号令とともに、魔導士たちが炎の魔法陣を空中に展開。
吹雪の中に、灼熱の通路が現れ、氷雪を押しのけるようにして道が開かれた。
将軍の咆哮に鼓舞され、兵たちは歯を食いしばり、地獄のような前進を続けた。
その一歩一歩が、まさに命がけだった。
犠牲は多かった。
凍死した兵、雪崩で潰された機械――
それでも、数日後、彼らはついに山脈を越えた。
その先に広がっていたのは、氷の大地。
そしてその中心に、蜃気楼のように輝く《ダイヤモンドの塔》がそびえていた。
ヴァルダーは険しい顔つきで剣を掲げた。
「……あれが我らの“運命”だ。」
「たとえ山が血を求めようと――
帝国は止まらん。」
その言葉に、兵たちは一斉に咆哮した。
槍と剣を天に向け、誓うように叫ぶ。
「イアト! イアト! イアト!」
その遥か上空――
飛行船の甲板から、リュウガたちは同じ嵐を見下ろしていた。
アイオが眉をひそめた。
「信じられない……自然すら彼らを試してるってのに……」
ウェンディは静かに目を閉じた。
「でも、彼らは止まらない。
ヴォルテルとも、私たちとも違う。
あの軍の力は――“苛烈さ”にある。」
リュウガは遠くの塔を見つめた。
その瞳には、氷の光が映っていた。
「結局、運命は全員を同じ場所へ導いてる……
違う“試練”を通して、な。」
ガレオンは航路を維持し続け、
その先――《ダイヤモンドの塔》は、確かに近づきつつあった。
三つの道。
三つの試練。
一つの運命。
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