第189章 – 継承者の道
ヴォルテル王国の部隊が、雪に覆われた山々を進んでいた。
その行軍は一糸乱れず、秒たりとも無駄にしない緊張感に包まれていた。
突如、隊列の先頭で王太子エリオン・ヴァルクレストが立ち止まり、古びた地図を広げた。
彼の金色の瞳は、揺るぎない決意に燃えていた。
「皆が知る道を進めば……」エリオンは力強く口を開いた。
「ガレオンと帝国よりも後に到着することになる。だが、ここに――」
彼は羊皮紙の上にかすかに刻まれた一本の線を指差した。
「忘れ去られた道がある。」
騎士たちは戸惑いの表情を浮かべた。
「道……ですか?」
光剣士セレン・ハルヴァードが問いかけた。
エリオンはうなずいた。
「古文書に記された、隠された峡谷が存在する。危険は多い。吹雪、野生の魔獣、自然の罠……だが、そこを越えれば――我らが誰よりも早く《ダイヤモンドの塔》に辿り着ける。」
聖職者のエルリアが不安げに歩み寄った。
「殿下……命を賭してまで、先に着く価値があるのでしょうか?」
エリオンは数秒、沈黙した。
やがて彼は顔を上げ、真っ直ぐに言った。
「帝国が塔を手にすれば、この大陸は滅ぶ。そして、あのガレオンの冒険者たちが先に着いたとしても……その力をどう使うか分からない。我らは、それを許すわけにはいかない。」
部隊の戦士たちは静かに頷いた。
道は困難でも、彼らはエリオンの判断を信じていた。
こうしてヴォルテル王国の一行は、進路を変えた。
彼らは細い崖道を下り、足元の氷がきしむ橋を渡り、吹雪の中で幽霊のように吠える白狼たちと戦った。
一歩一歩が、自然との闘いだった。
だが、エリオンは決して引かなかった。
「前進あるのみ!」
嵐の中、彼の剣は灯台のように輝いた。
「《塔》は我らの手に!」
一方その頃、ガレオンの甲板では――
リュウガが遠くの地平線を見つめていた。
《ダイヤモンドの塔》が微かに光っていたが、彼の胸には、何か別の不穏な感覚があった。
「誰かが……すでに先回りしてる気がする」
彼はつぶやいた。
ウェンディが眉をひそめる。
「帝国がルートを変えたってこと?」
リュウガは首を横に振った。
「いや、これは……もっと緻密で、冷静な戦略だ。」
セレステは手袋を締め直し、真剣な表情で答えた。
「なら、私たちもスピードだけに頼れない。彼らが本気なら……私たちも、意志を通すしかない。」
風が強く吹き抜けた。
ガレオンは空を進み続けていた。だがその下――
峡谷の奥では、すでにヴォルテル王国が先手を打っていた。
《ダイヤモンドの塔》を巡る戦いが、本格的に始まったのだ。
三つの力。
三つの理想。
一つの運命。
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