第184章 ― 危険な戦場、その名も…ハーレム!
ガレオンは穏やかな空を進んでいた。子どもたちは眠り、村人たちは休み、数日ぶりに静けさが戻っていた。
リュウガは疲れ切った様子で甲板に腰を下ろし、背中を手すりにもたせた。
「やっと…静かになったか。」
その静寂は、1分も持たなかった。
ウェンディがフルーツの盛られたトレイと濡れたタオルを持って現れた。
「リュウガ、怪我してるじゃない。拭いてあげる。」
彼女は顔が触れるほど近づいてきて、髪が頬をかすめた。
リュウガは慌てて後ずさる。
「だ、大丈夫だよ、ただのかすり傷だし…」
「黙って動かないで!」
ウェンディはそう言うと、タオルを彼の顔に押し当てた。
そのとき、アンが険しい表情で駆け寄ってきた。
「ちょっと待って! 私も手当てしたい!」
彼女は反対側に座り、小さな薬草の袋を取り出す。
「タオルよりこっちの方が効くよ。見てて、リュウガ!」
「お、おい…本当にそこまでしなくても――」
だがアンはすでに真剣な表情で、薬草を彼の肌にすり込んでいた。
その様子を見たアイオは、腕を組んで不満げに言った。
「はぁ? これ、誰が一番上手に看病できるかの勝負じゃないでしょ!」
彼女は一歩踏み出し、リュウガの正面に立って腕を掴んだ。
「私は武術を学んでたのよ。隠れた傷を見つけるのが得意なんだから!」
「か、隠れた!?」
リュウガはむせそうになりながら、肩や背中をぐいぐい触るアイオを止めようとする。
「ア、アイオ、それは必要ないってば!」
アンとウェンディが同時に叫ぶ。
「ちょっと! そんなに触らないでよ!」
緊張が高まったそのとき、静かにクロが現れた。
優雅に近づき、一言だけ言う。
「シャツを脱いで。」
リュウガの顔が真っ青になる。
「な、なに!?」
「子どもじみた優しさでは傷は癒えないわ。浄化魔法が必要なの。」
彼女の杖が淡く輝く。
「脱ぐか…私が脱がすか、選んで。」
空気が一気に張り詰めた。アン、アイオ、ウェンディが一斉に立ち上がり、クロを囲む。
「ダメ! それはやりすぎ!」
そして追い打ちをかけるように、メイドアンドロイドたちが現れた――救いか、混乱か。
アズはカチリとヘッドバンドを調整し、無機質な声で状況を分析する。
「分析:状況を確認。名称:ハーレム。感情安定性へのリスク:120%。」
パールは落ち着いた様子でリュウガの腕を取る。
「争わないで。彼を看るのは…私よ。」
クリスタルは、リュウガが同時に全員から治療を受けるホログラムを投影する。
「最適解:同時多重ケア。」
ナヤは腕を組んでため息をつく。
「これって看病というより、彼氏争奪戦でしょ。」
そしてヴィオラが、静かに、だがはっきりと言った。
「馬鹿げてる…けど、他の子に渡す気はない。」
リュウガは真っ赤になって飛び上がる。
「もうやめてくれ! かすり傷に軍隊は必要ないってば!」
一瞬の沈黙。
そして、全員が一斉に叫ぶ。
「必要よ!」
「私が一番上手にできる!」
「私に任せて!」
「分析継続中、解決していません。」
リュウガは額に手を当ててつぶやいた。
「…アビスともう一度戦った方がマシかも。」
その瞬間、甲板に笑い声が響き渡り、緊張は一気にほどけた。
久しぶりに、みんなが本当の意味で笑顔になった。
その夜、星空の下でリュウガは空を見上げてため息をついた。
「もしかして…悪くないのかもな。」
だが、足音がまた近づいてくるのを聞いた瞬間、彼はごくりと唾を飲んだ。
本当の戦場は…ここからだったのだ。
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英雄だって休息が必要…たとえそれがハーレムという形でも。