第181章 ― 同じ空の下で
夜が明け、村に朝日が差し込んだ。
家々は金色に染まり、広場には久しぶりに明るい笑い声が響いていた。
子どもたちは通りを走り回り、自由にはしゃいでいた。
その様子を見守る親たちは、安堵の涙を浮かべながら微笑んだ。
何人かの子どもたちは、木の棒を剣に見立て、
見えない魔物と戦う「ヒロインごっこ」に夢中だった。
—「ぼくは、塩のプリンセス・アン!」
—「わたしは、東の魔法戦士・アイオ!」
その声は、爽やかな風とともに村に響き渡った。
村の酒場では、リュウガたちが温かい食事と焼きたてのパン、そして感謝の込もった飲み物でもてなされていた。
—「多くはないが…」
村長は涙をこらえながら言った。
—「これが私たちの精一杯だ。子どもたちを返してくれて…本当に、ありがとう…!」
グレイオは豪快にジョッキを掲げ、声を張り上げた。
—「ハハッ!勝利の後は、うまい酒と温かい心が最高だな!」
窓際で外を見ていたマグノリアは、子どもたちの笑顔を見て微笑んだ。
—「こんなふうにまた笑える日が来るなんて…長かったわね。」
ウェンディは髪を整えながら、そっと頷いた。
—「ええ…リサンドラも、最後にはこの光景を見られたのね。」
その言葉に一瞬、静けさが降りた。
誰もが深くうなずき、彼女の記憶に思いを馳せた。
広場では、アンとアイオが子どもたちに囲まれていた。
小さな少女が白い花をアンに差し出す。
—「アン姫、ありがとう。」
アンは膝をつき、震える笑みで花を受け取った。
—「私は完璧な姫じゃないけど…あなたたちを守るために、これからも戦うわ。」
一方、アイオは子どもたちにカポエイラの動きを教えていた。
—「そう!脚を回して!そして笑顔を忘れないでね!」
笑い声が空へと響き、村に命の音が満ちた。
夕方になると、全員がリサンドラの墓の前に集まった。
村人たちは花や小さなおもちゃを供えた。
もう誰も泣いていなかった。
その顔にあったのは、哀しみと…静かな安らぎだった。
リュウガは前に進み、村人を代表して声を上げた。
—「今日は、私たちが守った命を祝い、彼女が見せた最後の笑顔を忘れないための日だ。」
全員が黙祷した。
その瞬間、風が優しく吹き、墓の上の花々をそっと撫でた。
まるで、空の彼方からリサンドラが見守っているかのように。
夜になると、村には無数の提灯が灯された。
英雄たちは村人たちと一緒に食卓を囲み、笑い合い、子どもたちは光の下で踊った。
そのひととき――
誰もがアビスの闇を忘れ、ただ平和を噛みしめていた。
それは、彼女が守ろうとした「世界」そのものだった。
――同じ空の下で。
この章が心に残った方は、お気に入り登録、コメント、シェアをお願いします。
あなたの応援が、この物語を未来へとつなげてくれます。