第180章 ― 最後の微笑み
ガレオン号はゆっくりと村の広場に降下した。
夜風が松明の炎を揺らし、村人たちは歓声を上げて駆け寄ってくる。
—「彼らだ!!帰ってきた!!」
—「ああ…よかった…!」
子どもたちはひとりずつ船を降り、涙を流しながら両親の腕へと飛び込んだ。
母はその子を抱きしめ、父はひざをついて無事を確かめ、兄や姉たちは声をあげて泣いた。
—「もう二度と会えないと思ってた…!」
—「ありがとう…ありがとう…連れ戻してくれて!」
村全体が涙に包まれた。だが、それは救いの涙だった。
その後ろで、リュウガたちは静かに降り立った。
彼らが運ぶのは、白い布に包まれた簡素な棺。
その中には、小さく壊れやすい体のリサンドラが安らかに眠っていた。
胸の上には、彼女が大切にしていた人形が添えられていた。
村人たちはその姿を見ると、静かに頭を垂れた。
泣き出す者もいれば、そっと目を閉じる者もいた。
年老いた女性がささやく。
—「結局…彼女も、ただ笑いたかっただけの子だったのね。」
葬儀は夜空の下、野原で行われた。
若木のそばに穴が掘られ、棺がゆっくりと降ろされた。
アンは頬に涙を流しながら、白い花の冠をそっと置いた。
—「リサンドラ…あなたがくれた時間に、ありがとう。忘れないわ。」
アイオは拳を握りしめ、震える声で言った。
—「敵として戦ったけど…あなたは、ずっと私たちの友達だった。
私は…そうやって覚えていたい。」
ウェンディは手を合わせ、静かに祈った。
—「あなたの魂が…ようやく安らぎを見つけられますように。」
村の子どもたちが手をつないで近づいてきた。
それぞれが小さな玩具を棺のそばにそっと置いた。
人形、木馬、ぬいぐるみ――すべてが彼女のために。
—「天国でもいっぱい遊んでね…」
そう言った少年の声は震えていた。
土が棺を覆い、墓石が置かれた。
その石にはこう刻まれていた:
リサンドラ ― 笑顔を守りたかった少女
その墓を囲む仲間たちの前で、
リサンドラの顔がそっと輝いて見えた。
――それは、生まれて初めて見せた、心からの微笑みだった。
アンとアイオは手をつなぎ、泣きながらも微笑んだ。
その笑顔は、リサンドラのものと同じくらい優しかった。
リュウガは空を見上げ、風に揺れるマントを感じながら呟いた。
—「安らかに眠れ、リサンドラ。君の戦いは終わった。
でも、その微笑みは、ずっと俺たちの中で生き続ける。」
風がそっと吹いた。
まるで、この王国自体が、彼女に別れを告げているかのようだった。
こうして――
涙と笑顔に包まれながら、英雄たちは村に別れを告げた。
彼らが残したのは、崩れた玩具の王国と、
ようやく“本当の笑顔”を見せた、ひとりの少女の記憶だった。
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