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第16章 エレノア王国の王女

血と鉄、涙と希望が交差する戦場――

そして、その静けさの中、

“王女”と“英雄”が再び出会う。

静まり返る遺跡。

先ほどまでの激戦がまるで幻だったかのように、石の崩れる音だけが響いていた。


通信魔法を通して、セレステの声が空気を震わせる。


「……全員、生きてる? 全部…終わったのよね……本当に、運が良かったわ」


カグヤ姫は腰に手を当て、深いため息を吐いた。彼女の忍獣たちは光となって消えていく。


「多機能忍者ってのも、やっと報われたわね……ふぅ」


リュウガは短く頷き、低く落ち着いた声で答えた。


「確認完了。区域、制圧済み。――よくやった、みんな」


セレステはふわりと空から舞い降り、ぼろぼろになった鎖に繋がれた少女の元へと歩み寄った。


それは――王女、ヴェルミラ。


「リシア……」


その声に応え、リシアは一言も発さず、そっと手を差し出して鎖を解く。

硬い音が鳴り、鍵が地面に落ちた瞬間、二人の視線が交錯する。


「……やっぱり、貴女だった……!」


王女は涙を堪えきれず、リシアにしがみつく。


「……あの時、私が居れば……護れたのに」


「違う。あの指輪……貴女がくれたから私は今ここにいるの。あれは、愛の証だった」


リュウガは黙ってその様子を見守る。クロも静かに頷き、

カグヤは口元を緩めて肩をすくめた。


「……なんてロマンチックな再会なのかしら」


ヴェルミラはリシアの手を握り、よろよろと立ち上がる。


「ごめんなさい……こんな姿じゃ、王女らしくないわよね」


それを見て、リュウガは空間から魔法のポータルを開いた。

中から現れたのは、紫地に銀の刺繍が入った、まるで王宮の客間から取り出したような高貴な毛布だった。


「これを……もう寒さや恥で震える必要はない」


顔を赤く染めたヴェルミラは、感謝の言葉をこぼしながらそれを身にまとう。


「……騎士のようね……ありがとうございます」


セレステはニヤリとしながらカグヤに耳打ちする。


「いつの間にか、騎士団長気取りね」


「っていうか、パパじゃないの? ふふっ」


「やめて、アイ! それ以上言うと心がもたないのよ!」


「親密度:89.3%。生殖可能性:高」


「アイーーーー!!!」


全員がどよめく中、ヴェルミラはふとリュウガに尋ねた。


「この子たち……あなたのご家族?」


一瞬の沈黙。


「違う!」

セレステの慌てた声に、カグヤが爆笑する。


その後、スター・チューンとデザート・サンダーの両車が合流。王女ヴェルミラはゆっくりと状況を語り始めた。


「……私たちは本来、ベランヒル峠近くの独立村と同盟を結ぶために向かっていたの。でも、道中で“黒い魔力の気配”があるという報告を受けて――私は、調査を選んだ」


セレステが問いかける。


「冒険者に任せれば良かったんじゃない?」


「既に、特別部隊を送ったわ……でも、全滅。残されたのは、血文字のメモと装備だけ……」


リシアが目を伏せ、リュウガは黙ってモニターに映るマップを睨みつける。


「名前は?」


「ハルクル……“裏切り者への罰”を口にしていたわ。正体は不明。でも確実に強大な敵」


カグヤが通信で割り込む。


「ハルクル……アイ、アン、データは?」


「……該当情報なし。正体不明」


「それって一番ヤバいってことね」


リュウガは低く答えた。


「ならば、奴らを追う価値がある」


数時間後――


エレオノール王国・王城前。

星が瞬く夕暮れ、白銀の門の前に二台の車両が到着した。


騎士たちが警戒態勢を取り、武器を構える。


「身分を証明せよ! ここは王家の許可がなければ通せん!」


リュウガが軽く眉をひそめる。


「歓迎ムードとは程遠いな……」


その時――

ヴェルミラがスター・チューンの扉を開け、毛布姿のまま静かに一歩を踏み出した。


「私は、第二王女ヴェルミラ・エランド・フェイリノール。王家の使節である。――剣を収めなさい!」


兵士たちが凍りつく。


「ま、まさか……王女様……!? ご、ご無事で……?」


「この方々に助けられたのよ」


直後、遠くから馬の蹄の音が響く。

白馬に乗って現れたのは、黄金のティアラに三つ編みの金髪をなびかせる騎士――第一王女・エリラ。


「何事だ! 誰がこの混乱を――…!」


そして彼女の瞳が、ヴェルミラを捉えた。


「……ヴェルミラ……?」


「お姉さま……」


毛布を取るヴェルミラ。その姿を見た瞬間、エリラは馬から飛び降り、

涙をこぼしながら妹を抱きしめる。


「……本当に……無事で……!」


「うん、私はここにいる」


そして振り返ると、騎士たちに凛とした声で命じた。


「第一王女、エリラが命ずる! すべての兵は武器を収めよ! 血統はここに在り!」


その瞬間、空気が変わる。


セレステがリュウガに耳打ちした。


「……まるで、劇場みたいね」


「姉妹の再会って、そういうものでしょ?」


だが――リュウガは気づいていた。

エリラの瞳の奥に潜む、“言葉にされていない恐怖”。


それは、ヴェルミラの帰還に対する喜びではなかった。

――国を蝕む“見えない敵”への、怯えだった。

挿絵(By みてみん)


ご愛読ありがとうございました!


次回、第17章ではエレオノール王国の謎と、「ハルクル」の影がさらに濃くなっていきます。

物語はついに王都へ――


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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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