第166章 ― 糸を断つ瞳
黒い糸が舞台を這い、蛇のようにうごめく。
磁器人形の一歩一歩が劇場を震わせ、
闇から現れる子供の影たちは、果てしない軍勢のように迫っていた。
マグノリアは息を荒げながら、かろうじて防御魔法陣を維持していた。
アルサは脇腹から血を流しながらも剣を握りしめ、
グレイオは全身傷だらけのまま、戦鎚を支えて前に立つ。
だが、その腕も限界が近い。
人形は首をかしげ、割れた口元で微笑んだ。
「まだ……救えると思ってるの? 英雄さま。
いずれ、皆壊れるだけの……操り人形にすぎないのに。」
リュウガは沈黙の中、じっと俯いていた。
そして、囁くように呟く。
「……なら、俺はその“糸”そのものだ。」
目を開いた瞬間――
世界が変わった。
彼の視界には、黒い糸がただの線ではなく、
赤く脈打つ心臓と繋がっているのが見えた。
人形の奥底に潜む、歪んだ感情。
嫉妬、怨嗟、痛み……それらが動力となり、影の子供たちを操っていた。
「分かった……」
リュウガの声は、静かに響いた。
マグノリアが驚いたように彼を見る。
「リュウガ……?」
彼は一歩前に出て、瞳に宿る力を燃やす。
「よく聞け。これ以上、闇雲に戦っても意味はない。
でも今の俺には“見える”。この戦いの構造が。」
右手をかざし、鋭く指差す。
「アルサ! 左腕に三本の糸が集中してる。そこを斬れ!」
疲弊しながらも、アルサはその言葉に従い、跳躍した。
剣を振るい、リュウガの指示通りに斬りつけると――
目に見えぬ糸が裂け、磁器人形の左腕が力なく落ちた。
「……切れた!? マジで……!」
アルサは目を見開いた。
リュウガは今度はグレイオに視線を向ける。
「グレイオ! 右脚の接合部に“圧力核”がある。叩き潰せ!」
「了解ッ!!」
グレイオは叫び、全力で跳躍。
魔法刻印が輝く戦鎚を振り下ろす。
粉々に砕けた脚部により、人形はよろめいた。
マグノリアがその瞬間を見逃さない。
「……今よ! 影を封じるわ!」
「任せる!」
リュウガが即座に返す。
マグノリアは両手を広げ、リュウガの視界に導かれるように
魔法陣を舞台中央に展開した。
光の洪水が降り注ぎ、影の子供たちが光に包まれて消えていく。
人形が悲鳴を上げる。
その声は割れ、壊れた人形のようだった。
「見えてるの……? 私の“糸”が……!」
リュウガが一歩ずつ歩を進める。
その瞳は、冷たくも燃えるような光を宿していた。
「俺の目に見えるのは、お前の力じゃない。
お前が“偽り”でできていることだ。」
劇場全体に響くような声で、彼は言い放つ。
「この戦いのバランスは、今ここで逆転する!」
アルサは剣を掲げ、再び闘志を燃やす。
グレイオは地面を踏み鳴らし、牙を剥く。
マグノリアは輝く魔法陣を再構築し、完全に回復。
――流れが、変わった。
かつては絶望的だったこの人形。
今、その体は震えていた。
リュウガの“目”に見破られ、支配が崩れつつある。
反撃の舞台は、ついに整った。
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