第165章 ー 残酷な舞踏:磁器人形の踊り
機械兵を打ち倒した爆発の残響は、リュウガたちには届かなかった。
彼らは、別の悪夢の中に囚われていた。
巨大な磁器人形は、黒い旋風とともに彼らを飲み込み、異なる舞台へと引きずり込んだ。
そこは――巨大な劇場。
幽玄なシャンデリアに照らされた空間には、古びた香水と埃の匂いが漂っていた。
長い年月、誰にも踏まれていない舞台のように、静かで、どこか狂気を孕んでいた。
中央に立つのは、白いレースのドレスをまとった磁器人形。
割れた顔の奥には、虚無の闇がのぞいていた。
動くたび、ひび割れた陶器が軋む音が響く。
「ようこそ、私の舞台へ……」
その声は冷たい囁きのようで、壁を這うように響いた。
「あなたたちは、私の人形……壊れるその瞬間まで。」
アルサは剣を構え、重圧に体を震わせながら叫んだ。
「ふざけるな! これはただのゲームじゃない!」
人形はくるりと舞い、黒い糸を指先から放った。
それはアルサを壁に叩きつける。
「アルサ!」
マグノリアが防御魔法陣を展開し、次の糸を辛うじて防ぐ。
だが、その衝撃に彼女も後退させられた。
「誰が操られてやるかぁあっ!!」
グレイオが咆哮し、輝くルーンが刻まれた戦鎚を振り上げた。
「首の一本くらい、砕いてやる!」
彼の一撃は人形の顔面を直撃する。
雷鳴のような音が劇場に響き渡った……が、
次の瞬間、割れた顔は元に戻り、また微笑みを浮かべる。
「いい演技だったわ。さあ、もっと踊ってちょうだい。」
その腕から伸びるのは、無数の黒糸。
それらは舞台を這い、空間を支配する蛇のように蠢く。
リュウガは冷静にその光景を見つめ、指先に符号を浮かべる。
「これはただの敵じゃない……心を砕くために創られた存在だ。」
黒糸が壁を突き破り、柱をなぎ倒す。
マグノリアは防御魔法を唱え、アルサは糸を斬り払い、グレイオは強引に耐える。
だが、どれだけ傷つけても――人形はすぐに修復される。
「……弱点がないのか……!?」
アルサが呻く。
マグノリアの胸元を狙った糸。
それをリュウガが防ぎ、空中に魔法陣を出現させて弾く。
「集中しろ! 壊れないんじゃない、遊ばれているんだ!」
磁器人形は首を傾け、割れた声で笑う。
「英雄様……本当に全てを救えると思ってるの?」
その瞬間、シャンデリアに黒炎が灯る。
劇場の壁から、無数の小さな人形たち――陶器の子供たちが降りてくる。
「……悪夢だ……」
額から血を流すアルサが呟く。
「ならば……その夢、ぶち壊すまでだろッ!!」
グレイオが血を吐きながら再び構えた。
リュウガは静かに目を閉じ、仲間たちの絶望を感じ取る。
そして、目を開くとき、彼の瞳は鋼のように輝いていた。
「どれだけ操り人形を出そうが関係ない……」
声は鋭く、空気を裂いた。
「俺たちが断ち切ってやる。その操る手を――!」
戦いはまだ始まったばかりだった。
この磁器人形は、ただの守護者ではない。
――英雄たちを壊すために生まれた、最悪の夢そのものだった。
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