第157章 – リサンドラの壊れた心
アンとアイオの背後で扉がバタンと閉まり、二人は他の仲間たちと引き離された。
目の前に広がるのは、まるで時間が止まった幼児向けの劇場のような空間。
クレヨンで描かれた壁、ピンクのベルベットのカーテン、そして木製ブロックで作られた王座。
その王座に座るのは、リサンドラ。
かつての優しい瞳はもう無く、ひび割れたガラスのような目で、孤独を滲ませた笑みを浮かべていた。
お気に入りの人形を膝に抱えながら――。
「来てくれたのね……」
声は柔らかく、どこか母性的だった。
「大切なお友達たち。」
アンは一歩前へ踏み出し、鼓動を強く感じながら口を開いた。
「リサンドラ……どうして? どうしてみんなが消えていくおもちゃの世界なんて作ったの?」
リサンドラは膝の上の人形の頭を撫でながら、ゆっくり答える。
「大人は、いつもすべてを壊すの。痛みも、涙も、叫びも……。
あれに戻りたいの? 私はそれを拒んだ。泣かない世界、完璧な場所を作ったの。わからないの?」
アイオはうつむき、涙をこぼしながら震えた声で言う。
「最初は、わかると思ったよ。守ってくれるって……でも、これは本当の笑顔じゃないよ。
この王国は……牢獄だよ!」
リサンドラは人形を王座に置いて立ち上がる。
その声は次第に硬く、そしてかすれ始めた。
「じゃあ……あなたたちも私を拒絶するのね? 他の大人と同じように?」
アンは拳を握りしめて言った。声は震えていたが、その意志は揺るがなかった。
「助けたいんだよ、リサンドラ! どんなに否定しても、君は一人じゃない!
でも、この偽物の世界を受け入れることはできない!」
重たい沈黙が部屋を満たした。
リサンドラはうつむいたまま、静かに言った。
「……もう話す必要はないわね。」
その瞬間、床が震えた。
歯車、積み木、バネ、糸――無数のおもちゃの部品が空中に浮かび、彼女の体の周囲で回転を始める。
それらは一つの姿に組み上がっていく。
ギシギシと音を立てる、まるで生きた人形のような巨大な戦闘用アーマー。
彼女の目が、怒りと哀しみを帯びて光る。
「私の世界を壊すなら……その世界で粉々にしてあげる!」
アンはアイオの手を取り、強く叫ぶ。
「だったら、この痛みの鎧を壊してみせる!」
アイオも手を握り返し、目に決意の光を宿す。
「私たちが知ってるリサンドラのために、絶対に……!」
二人の体が光に包まれ、純粋なエネルギーが弾ける。
劇場のような広間が、まるで映画の幕開けのように輝いた。
***
その頃、扉の向こうの廊下では、突如として床が崩れ、リュウガたちは後方へと吹き飛ばされていた。
地響きが響き、地下からそれは現れた――
巨大な磁器の人形。
ガラスの瞳と無表情な微笑み。
その存在は、明らかに「おもちゃ」と呼べる代物ではなかった。
マグノリアは一歩後退し、冷たい視線を向けた。
「……これはただのおもちゃじゃないわ。生きてる。」
王子アルタは剣を握りしめ、額に汗をにじませながら叫ぶ。
「な、なんだこれは……!? 巨大な人形だと!? これは……化け物だ!」
グレイオは大きなハンマーを回しながら、にやりと笑う。
「上等だ! その偽りの笑顔、粉々に砕いてやるぜ!」
リュウガが前に出て、燃えるような目で言った。
「君たちはあの人形を食い止めてくれ! アンとアイオを一人にはさせない!」
こうして、それぞれの戦いが始まった――
一方では、アンとアイオが“壊れた少女”リサンドラと対峙する。
もう一方では、リュウガたちが進路を塞ぐ巨大な磁器人形と激突する。
これは、「壊れた心」を救うための戦い。
その序章が、静かに、しかし確かに幕を開けたのだった。
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