第150章 – 壊れた笑顔の裏にある真実
夜の風が広場の松明の煙を運び、人々の表情をかすませていた。
村人たちは円を作って集まり、リュウガの声が静かに響く。
「俺たちは、リサンドラの“本当”を知る必要がある。
彼女はなぜ……こんなことを?」
長い沈黙のあと、震える手をした年配の女性が前に出た。
「この村では誰もが彼女を知っていました。あの子は優しくて無垢な子でした……あの人形をいつも抱いていた。
でも――間違った家に生まれてしまったんです」
アンの目が見開かれる。
「“間違った家”?」
老女はうなずき、唾を飲み込んだ。
「父親は酒浸りで、ひどい男だった。
リサンドラを血が出るまで殴って……
私たち何人かは助けようとしたわ。でも……何も変わらなかった。
あの子にとって毎日は地獄だった」
アオイは胸に手を当て、怒りを必死に押さえる。
「……じゃあ、彼女が言ってた“大人は夢を壊す”って……本当だったんだ」
製粉所の老人が続けた。
「ある日、限界が来て彼を村から追い出した。
だが、もう遅かった。
あの子は……笑っていたが、目はもう、子どもの目じゃなかった」
――記憶の断片がよみがえる。
小さなリサンドラ。
頬には傷、暗い部屋の隅で膝を抱えて震える少女。
でも、心の奥には、ある願いがあった。
“子どもたちが笑っていられる場所がほしい。
誰も泣かない場所がほしい――”
その願いに応じるように、森の奥で何かが光っていた。
それは脈動するように輝く水晶だった。
中から囁く声が聞こえる。甘く、だが毒を含んだ声。
「子どもたちを守りたいのか? もう二度と傷つけられたくないのか?
なら、私の力を使え。お前は、もう“弱くない”」
血のついた小さな手が水晶に触れる。
そして次の瞬間、冷たい炎のような魔力が彼女を包んだ。
その夜、再び現れた父親。酒に酔い、手にはベルト。
しかしリサンドラは、もう怯えなかった。
「……もう二度と、私を傷つけられない」
一閃の光。
そして男は、人形のような抜け殻に変わっていた。
――“おもちゃの王国”の原点が、そこに生まれた。
時は戻り、広場の村人たちは目を伏せ、涙をぬぐい、誰かが名を呟く。
「彼女は……いつも、誰かと遊びたがってた。
でも……ある日から変わった。笑わなくなって、黙って……
そして、一緒に遊んでいた子どもたちが、消え始めた」
リュウガは目を閉じ、言葉の重みを受け止める。
ヴェルが拳を握る。
「……つまり、“おもちゃの国”は、憎しみと痛みから生まれたんだな」
セレステが深く息を吐く。
「なら……まだ彼女は“完全には失われていない”ってこと。
やったことは酷い。でも、始まりは――守りたかった、ただそれだけ」
アオイは目に涙を浮かべ、呟く。
「でも……憎しみに染まった人を、どうやって“救う”の……?」
誰も、すぐには答えられなかった。
やがて、リュウガが口を開く。
「もし本気で救いたいなら……俺たちは彼女と戦わなければならない。
敵としてではなく――帰り道を示す者として」
アンが真っ直ぐ彼を見る。
「命を懸ける覚悟が必要ってこと?」
リュウガはうなずく。
「命を懸けてでも、やる価値があると信じてる」
アオイはうつむいたまま、拳を握りしめる。
「……まだ怖い。でも……
私は、“あの子”を救いたい。
私たちの、笑っていたリサンドラを」
リュウガは彼女に優しく微笑む。
「その気持ちを、忘れるな」
――炎は灯った。
だが、本当の戦いは――これからだった。
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