第13章 狩猟
ヴェールの奥深く──
霧が秘密をささやき、
大地が死者たちの残響を抱えるその場所で、
狩りが始まった。
栄光のためでもなく。
復讐のためでもない。
ただ、まだ救うに値するもののために。
砂漠の雷鳴は、機械の巨獣のように岩だらけの平原を轟かせていた。
ヴェールに覆われた灰色の太陽は、死に絶えた風景にほとんど光を届けられなかった。
カグヤは上部ハッチから顔を出し、鋭い目で地平線を見つめていた。
—「もう少し東…。痕跡は途切れていない。でも…足跡が混ざってる」
リュウガはセンサーを確認した。
—「“混ざってる”って?」
カグヤは空気を嗅ぎ、猟犬のような耳が微かに動いた。
—「姫だけじゃない。男たちの匂い。汗、安い油、錆びた鎧…腐った肉。かなりの数よ」
セレステは眉をひそめた。
—「罠か、見張りか?」
—「両方」カグヤは即答した。
彼女の体が緊張で固くなる。
—「止めて! 今すぐ!」
エンジンは唸りを上げて止まり、魔力の砂煙が舞い上がった。
彼らの前に広がっていたのは、古の遺跡──倒れた塔、風化した柱、失われた象形文字。まるで骨が今も泣いているかのようだった。
—「徒歩で行く」リュウガは低い声で命じた。「デザート・サンダーは後方支援に回せ」
—「支援部隊は?」セレステが腕を組んだ。
—「君たちを信じてる。セレステ、アオイ、アン──持ち場を守ってくれ」
3人はうなずいた。セレステが小声でつぶやく。
—「また保護者役か…。定番すぎる」
—「精密。忠実。信頼できる」リュウガが微笑んだ。
クロが音もなく進み出る。
—「クロ、彼女たちと残って。何かあればすぐ知らせてくれ」
カグヤは目を閉じた。
彼女の体が変化を始めた。忍獣たちが次々に召喚される。
-トロンバス:戦象。地震センサー
- 狐:完璧な幻影
- カラス:上空監視
- シロクマ:完全耐性
- タカマル:魔力の流れを読む鷹
- アクィラ:望遠視
- ウミ:追跡専門のイルカ
- クロロ:潜入用タコ
- シャークプリンセス:水中暗殺者
- 狼:群れの戦術
それぞれの姿に、光の印が空を駆けた。
—「多形態。適応型。探知不能」カグヤが囁いた。
リュウガはマントを直した。
—「隊列を締めろ。セレステ、少女たちを守って。合図を待て」
—「気が進まないけど…了解」
リシアはデザート・サンダーの中から、驚愕の表情で彼らを見ていた。
—「これが…普通なの?」
—「何もしないことの方が、異常なんだよ。この世界では」リュウガが返した。
一行は廃墟の中を滑るように進んだ。
ねじれた柱、槍のように立つ枯れ木、そして沈黙の結界。
風は古代の魔法の香りを運んでいた。まるで、千年前の悲劇がまだささやいているかのように。
リュウガ、リシア、クロ、そしてイルカ型忍獣「ウミ」になったカグヤは、音もなく前進した。
—「…地下通路あり。魔力の痕跡、新しい」
タカマルが空から報告する。
—「近いな」リュウガがうなずく。
数メートル先、焚き火を囲んで5人の男たちがいた。
—「今、音がしなかったか?」
—「ただの石ころだろ。こんな場所に誰も来ないさ」
—「でも…この匂い、嫌な感じだ」
最初の男は言葉を終える前に倒れた。
影が空から舞い降りた──
無音の衝撃。
彼は即座に気絶した。
—「なっ、何が──!?」
霧の中から、忍者サメ姫が現れ、一瞬で2人を武装解除した。
—「血は、遠くからでも呼ぶのよ」
タカマルが降下し、魔法の鎖で1人を縛る。
—「空からは、すべてが見える」
残る2人が逃げ出すが、狐が幻の壁を作る。
彼らは衝突し、倒れた。
—「目はね、だましやすいの」
カラスが優雅に舞い降り、最後の男の首筋を打つ。
—「沈黙は、最高の旋律」
10秒。死者ゼロ。警報ゼロ。
カグヤは人間の姿に戻り、通信機を起動。
—「掃討完了。入口、確認済み」
—「よし。進もう」リュウガが答えた。
デザート・サンダーの中で、リシアは震えていた。
—「…あれは…戦いじゃなかった」
カグヤは横目で彼女を見た。
—「そう。警告よ」
時に、本当の力とは、
殺すことではなく…
…殺せたという事実を、
はっきりと示すこと。
狩りは終わっていない。
ただ――
語り始めたばかりだ。