第142章 ――人形の少女
広場には、まだ自動人形の金属音が響き渡っていた。
巨大なからくり兵は不格好ながら、まるで城壁のように頑丈だった。
「パール、胸部の弱点を狙え!」
視界を鋭く光らせながら、リュウガが叫ぶ。
「ブルーナ、背後に回って関節を狙え!アイオ、左腕を破壊!アン、注意を引き続けろ!」
号令は稲妻のように飛び、仲間たちは一瞬の迷いもなく動いた。
ブーツを履いた猫の姿のアンが、機体の肩を飛び跳ねながら素早く突きを繰り出す。
魔法ボクサー形態のアイオは、流星のような青い拳を連打し、金属の装甲を叩き割る。
パールは重たい一撃で装甲を貫き、亀裂を広げていく。
そしてブルーナは――待っていた。
その呼吸はまるで戦の太鼓。
からくり兵が連携攻撃で膝をついた瞬間、彼女は叫んだ。
「今よ、私の番!」
渾身の力で跳躍し、身体を回転させながら、装甲の裂け目に回し蹴りを叩き込んだ。
雷鳴のような衝撃音。
機械兵は機械音を漏らしながら、煙と火花を上げて崩れ落ちた。
――広場に静寂が戻った。
戦いの後
リュウガは、戦闘前に避難させていた村人たちを安全な場所へと誘導していた。
母親は震え、老人は静かに祈っていた。
「もう大丈夫…終わったよ」
リュウガは力強く言った。
だが、その平穏は脆かった。
息を荒げながら、ブルーナは倒れた兵の残骸を睨みつけた。
「これは…ただの襲撃じゃない」
ロバの耳が緊張でピンと立っていた。
「まるで、誰かが私たちをここに誘い込んだみたい…」
パールも頷く。センサーの光が赤く点滅していた。
「同感。攻撃パターンは事前に組まれたもの。
この自動人形は偶然現れたわけじゃない。
“解き放たれた”のだ。」
アンは不安そうに剣を抱きしめ、アイオは敵が出てきた井戸をじっと睨んだ。
「じゃあ…誰が、それをやったの?」
──そして、真実は明かされた。
帰還
一行が村人たちを避難させた避難所に戻ると、そこには安堵の表情はなかった。
壁際に追い詰められたように、怯えた表情で立ち尽くす人々。
中央に立っていたのは――
人形を抱えた少女、リサンドラ。
その瞳は濡れたような紫に光り、呼吸は乱れていた。
それはすすり泣きか、あるいは怒りか。
「失敗したのね…」
彼女は小さな声で、しかし憎しみに満ちた口調で言った。
アンが一歩踏み出す。
「リサンドラ…?何を言ってるの…?」
少女は、ぼろぼろの布人形を掲げた。
ボタンの目が、不自然な光を放つ。
「守ってくれなかった。誰も、私の声を聞かなかった。
だから――」
彼女は村人たちを指差した。
「この人たちが、私の声を聞いたの。」
村人たちの動きがどこかおかしい。ぎこちなく、腕を不自然に持ち上げている。
まるで――見えない糸で操られているかのように。
「っ…人形に…されたの!?」
アイオの目が見開かれた。
ウェンディは口元を覆い、言葉を失う。
ブルーナが一歩前に出ようとするが、それをリュウガが手で制する。
「近づくな。」
リサンドラは、哀しみと怒りが入り混じった瞳で皆を見た。
「この人たちは、私に従うの。
だって、あなたたちは裏切ったから。
今度は…私の命令を聞いて。」
布人形が、にたりと――そう“見える”ように、笑った。