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第139章 – 生きている村の声

朝が村にこぼれ落ちた。まるで温かいミルクを注いだように。

焼きたてのパンの匂い、湿った木の匂い、熟れた果実の甘い匂い。

ガレオンは小麦畑と怠けた風車に隠れるように休み、そこから仲間たちは二人ずつ、ゆっくりと下りてきた。澄んだ空気が神経を伸ばし、しわを伸ばすように。


広場では、下手な吟遊詩人がリュートをかき鳴らし、子どもたちは輪を転がして走り、宿屋の主人はテーブルクロスを太陽の下で払っていた。

表面上は、すべてが平和に見えた。


だが視線は長く、ささやきは短い。


子どもと蝶


「リサ、見て!」

アンがリボンで即席の芸を披露する。


金の粉を散らしたリボンは巻きつき、一羽の紙の蝶に変わってリサンドラの周りを舞った。あまりに輝く瞳を持ち、ボロボロの人形を抱きしめる少女。


アイオが手を打ち、楽しそうに笑う。

「この編み込みをつけたら……もうおとぎ話のヒロインだよ」


「わ、わたしが……ヒロイン?」

リサンドラは小さく笑い、肩をすくめた。

「今まで誰もそんなふうに言ってくれなかった」


「じゃあ、私が言う!」アンがウィンクする。

「ヒロインはね、ケーキを食べるの。行こう!」


少女は一瞬迷った。瞳に湿った紫がちらりと浮かび、すぐに消えた。

「……うん」


三人は笑いながら菓子屋へ歩き出す。

しかし井戸のそばを通り過ぎると、二人の女が話をやめ、ちらりと見てから距離を取った。

アンは気づかないふりをしたが、アイオは眉をひそめた。


巨人と果物


市場が凍りついたのは、スティアが樽を三つ抱え、角を曲がったときだった。


「確認:通路、確保。要請:『樽』の置き場は?」


酒樽屋はごくりと唾をのみ、震えながら答える。

「こ、ここで……いい、いいよ……えっと、“機械さん”? “旦那”?」


「どちらでも可。“機械さん”は機能的」

スティアは厳かに答える。


子どもが一つの梨を差し出した。


「贈与受理。注記:消化機能なし。質問:この梨を保存するのは社会的に正しい?」


「正しいーっ!」二人の子どもが声をそろえる。


スティアは胸の小さなコンパートメントに梨を収め、完璧な音で蓋を閉じた。

子どもたちは歓声を上げ、市場の雰囲気も少しずつ解けていった。


「ほぅ……」グレイオは煙管をくわえながらぼそり。

「見ろよ、大男の方が王より先に礼儀を覚えやがった」


パールが隣に現れ、記録板を見せた。

「社会的受容度:スティア、17%から63%に上昇。経過時間16分」


「バカ言え、70はある! 子どもらを味方につけたんだぞ」

「データ改ざんは不可、グレイオ氏」

「俺だって煙草はやめられん!」


笑い声と煙が広場を満たした。


名乗り


布屋の角で、リュウガはマグノリアと買い物をしていた。そこへ救出した二人の亜人少女がやってくる。


狐の少女が尾を揺らし、琥珀の瞳で笑った。

「おはよう。値段表、まとめてきたわ。――私はザフィラ。まだ誰も聞いてくれなかったみたいだから」


隣で、がっしりした手を持つロバ耳の少女が肩掛け鞄を直した。

「ブルナだ。荷物なら任せて」


「ありがとう」リュウガが微笑む。

「今日は休養。だが明日は山に入る」


ザフィラは少し挑発めいた視線を投げた。

「じゃあ今日こそ、お茶をごちそうしてくれる?」


咳払いが空気を裂いた。

ウェンディが水差しを抱え、にこりと“危険に優しい”笑顔を浮かべる。

「まあ……お茶、素敵ね」


ヴェルがリュウガの肩に肘を乗せた。

「二杯ね。戦略的なお話、私も聞きたいわ」


「ふふ、ケンカはやめなさい。勝ち取ったお茶の方が美味しいのよ」

かぐやが後ろ手に歩きながら冷やかす。


セレステも静かに加わった。わずかに眉を上げるだけで、存在感は十分。

「戦略会議なら、航路を引く私も加えて」


リュウガは額に手を当てた。

「……大きな急須を用意するか」


遠くでアンとアイオがケーキを振って叫ぶ。

「お菓子付きー!」


ウェンディは黙っていたが、否定もしなかった。


塔の影


小さな寺院の傍で、アルトゥスは欠けた壁画を見上げていた。

モザイクの王がダイヤを掲げている。


「父は言った。“名前は壁を支える”と」

リュウガが隣に立つ。

「だが時には、壁そのものが背にのしかかる」


アルトゥスは苦く笑った。

「ここでは“旦那様”と呼ばれる。尊敬なのか、ただの幻を買われているのか分からない。塔は……宝箱じゃない。問いなんだ」


「なら答えよう」リュウガは言う。

「言葉じゃなく、歩みで」


沈黙。風が、祭壇に結ばれたリボンを揺らす。


「古い道は残っているとグレイオは言う。マグノリアは影を疑いながらも進む。

俺は……進まなければ罪に潰される」


「そして誰かが扉を開かねばならない」リュウガが加えた。


アルトゥスは深く息を吸う。

「誰かが支えねば、皆が通れない」


二人の間に約束はなかった。ただ、重荷を分け合う背中の合意があった。


村の一日


マグノリアは帳面をめくる。値段、名前、道筋。顔を上げると――

ザフィラがかぐやと笑い、ブルナはヴェルと荷物の縛り方を競い、スティアは老婆たちに「機械の物語」をせがまれていた。

パールは相変わらずグレイオと数値の言い合いをしている。


そして遠く、リサンドラは泉の縁に座っていた。アンに口元の砂糖を拭かれ、アイオに指鳴らしの光を教わりながら。


マグノリアは唇を噛み、小声でつぶやいた。

「不可能な一団……だからこそ、成せるのかもしれない」


不安の影


門の影で、二人の男がひそひそ声。


「聞いたか? 粉ひきの小僧が戻らねえ」

「シッ。あの“化け物”に聞こえる」

「化け物?」

「分かってるだろ……あの子だ。人形を持った」


アイオは瞳を伏せ、アンは反射的にリサンドラを抱き寄せた。

「大丈夫?」

「うん」少女は笑う。「みんなとなら……大丈夫」


一瞬、紫の光が彼女の目に戻り、人形がくしゃりと音を立てた。


夜の前触れ


スティアは車輪を直し、ブルナは三つの袋を担ぎ、ザフィラは香辛料を値切る。

ヴェルとセレステは航路で“競い”、かぐやは子どもにわざと負けて英雄に仕立てた。

ウェンディは傷ついた菓子職人の指に包帯を巻き、パールは「スティアの近くで人が笑った回数=19」と記録。

グレイオは「儀式用」と言い訳して新しい煙管を買い、マグノリアはすべてを記し、目には何も隠さなかった。


広場ではアンとアイオがリサンドラに手遊び歌を教えていた。

わざと間違えて笑う少女。最後の拍手は、必ず一拍遅れて。

まるで、もう一組の手を待っているかのように。


不穏な報せ


寺の鐘が夕暮れを告げたとき、宿屋の主人が血の気を失って駆け込んだ。


「リュウガ様! 粉ひきの小僧が戻らない! 母親が最後に見たのは……」

彼は泉を見て、唾を飲み込む。

「……あの子と遊んでいたときだ」


アンは咄嗟にリサンドラを抱きしめ、アイオは人形を凝視した。

ザフィラの笑みは消え、ブルナは歯を食いしばる。

ヴェルの手は柄に伸び、セレステはリュウガの目を探し、かぐやはもう笑っていなかった。


リサンドラは俯き、人形を強く握りしめる。ボタンの目が、かすかに光を返した。

「……知らない」彼女は小さくつぶやいた。


アイオがその手を取る。

「じゃあ一緒に行こう。みんなで確かめよう」


少女はうなずいた。人形は――もし誰かが本当に見たなら――まばたきをした。


夜が落ちた。村は普通に見える。だが沈黙は普通ではなかった。


リュウガは東を見やった。山々は古の怪物の牙のようにそびえている。

彼は息を深く吐き、告げた。


「夜明けに出発する。だが今回は、広場に見張りを残す」


クロウが一度だけうなずいた。


低いざわめきの底で――アビスが誰かの名を呼んだ。

誰にも聞こえない声で。

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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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