第12章 予期せぬ救出作戦 パート2
暴かれた真実。
贖罪に燃える命。
義務と運命の狭間で──
心は、不可能な選択を迫られる.
カグヤは静かに口笛を吹いた。
空気は張り詰め、緊張が走る。
──普通のエルフじゃないわね。その魔力の流れ…純粋すぎる。
リシアは一歩後ろに下がった。
隠していた幻影が静かに消え、
彼女の真の血筋が露わになる。
—知られたくなかったの…
人は私たちを「誰か」ではなく「何か」として見る。
使えるものとしてしか。
リュウガは両手を下ろし、穏やかな声で言った。
—君を傷つけるつもりはない。
でも…君が何者かを知った今、守る理由がさらに増えた。
リシアの唇が震える。
瞳には押し殺した感情がかすかに揺れる。
—本当に…信じていいの?
カグヤは自然な微笑みを浮かべた。
—リュウガが盗賊団を消し飛ばして、
私を虫のような忍者に進化させたんだから…
信じてもいいと思うわ。
セレステが笑う。
—信じられないなら…せめて毛布は柔らかいわよ?
リュウガは彼女をじっと見つめる。
その放つオーラは、気高く、優雅だった。
—純血のエルフ…? でもその青い髪は…珍しい。
リシアは頷いた。
—私は「アクアリオ」。古代エルフの分家。
精霊の湖に隠れて暮らしていた。
私たちの血は、水と風と深く結ばれている。
セレステは目を見開く。
—だから…あの霧! あなたの魔力が絶えず流れてたのね!
リュウガは分析眼を起動する。
【クラス】 試作型エルフ ─ アクアリオ
【役割】 聖なる射手(蒼翠弓士)
【特性】 幻術、圧縮射撃、霧のヴェール
【状態】 負傷、魔力疲労(重度)
備考: 武器は弓だが、狙われたのは技術ではなく、彼女の“魔力”。
カグヤが眉をひそめた。
—護衛は? どうしてひとりで?
リシアは唾を飲み込み、顔を上げる。
—私はレオノール王国の王女の護衛だった。
旅の途中、黒い獣に襲われた。
皮膚が骨のような…まるで腐敗したハイエナ。
セレステが固まる。
—…それは“ヴェール侵食体”よ。
—彼女は指輪を私に託し、「逃げろ」と命じた。
囮になるって…私は逃げて…そして気づいたら、ここにいた。
セレステは地図を開く。
—ここ。王女の印はまだ生きてる。
でも弱ってる。あと8キロ東よ。
カグヤはすでに装備を整えていた。
—今も生きてるなら、動けないはず。助けに行く。
リュウガが静かに立ち上がる。
—ストーンブラッドに渡すわけにはいかない。
彼はクロに振り返った。
—何があっても、ここを守ってくれ。
クロは黙って頷き、影のようにその場に立った。
リシアはふらつきながら前へ出た。
—私も…行かせて。彼女は、私のすべてだった。
リュウガは静かに首を振る。
—だからこそ…君は生きなきゃいけない。
セレステが近づく。
—で? 作戦は?
リュウガは手袋を締める。
—王女のように戦うさ。
誇り高く。最後まで。
準備開始
スター・チューンは準備万端。
だがリュウガは立ち止まり、リシアを見つめる。
金の瞳が光を放つ。
—君は…過去を捨てる必要はない。
手を上げると、金と青の魔力が空気を包み込む。
粒子が舞い、魔法が具現化する──
深緑の戦装束、波紋を描く水の紋様。
青い宝石が核に埋め込まれた精霊弓。
リュウガはそれを渡した。
—これは君の力。諦めなかった者への贈り物。
リシアは息を呑む。
—どうして…こんなことができるの?
—後で話そう。今は──仲間として、君に渡す。
リュウガは新たな車両を召喚:
「デザート・サンダー」
魔力装甲。思念駆動の車輪。上部ハッチ完備。
リシアは戸惑う。
—こ、これ…なに?
—馬はいらない。速度だけでいいのよ —カグヤが笑う。
—わかんない… —リシア。
—だったら聞かずに乗って —セレステも笑う。
カグヤが手を差し出す。
—その指輪、借りていい?
—なぜ?
忍犬モード:起動
カグヤの姿が闇の霧に包まれる。
やがて犬耳と琥珀色の目、野性の気配を纏って現れる。
—王家の香り、恐怖、血筋…全部追える。
リュウガは通信符を投げる。
—ハッチに入れ。常時通信を。
—了解、隊長。
リュウガはクロを最後に見つめた。
—何があっても、ここを通すな。
クロは短剣を構え、影のように構える。
リシアは不安げに尋ねた。
—…もし、罠だったら?
リュウガがエンジンを起動させる。
—その時は──
罠ごと、砕き潰すだけだ。
エンジンが吠える。
車輪が大地を蹴り──
そのまま、
闇の中へと走り出した。
星に覆われた震える夜の中で──
復讐と、義務と、贖いが
静かに絡み合う。
それは、ただの任務ではなかった。
それは──
秘められた戦争の、始まりだった。