第129章――「東方の地図」
穏やかな朝日が大地を照らす中、リュウガはセレステ、カグヤ、ウェンディ、そして仲間たちと共に、村を抜けてガレオン号へと向かっていた。
その巨艦は村の外れに堂々と停泊していた。補強された帆、金属の外装、そして陽光を反射するその姿は、もはや船というより「空と海の要塞」だった。
最初に足を止めたのはグレイオだった。くわえていたパイプが口から落ちかける。
「鉄髭にかけて……」
彼の目は船体の細部を追い、思わず叫んだ。
「こりゃあ船じゃねぇ!動く要塞じゃねぇか!」
マグノリアも目を見開き、胸元に手を当てる。
「こんなものが…実在するなんて…これで旅をしているの?」
ランプの前に整列したメイド型ロボットたちは、優雅に一斉にお辞儀した。
そしてスティルが一歩前に出て、機械の瞳を光らせながら宣言する。
「司令ユニット、起動。来訪者、確認。入艦を許可します。」
その厳かな雰囲気に、冷徹な眼差しを持つ青髪の継承者アルサスでさえ、わずかに鼻で笑った。
「まさかお前たちの力が、空と海にまで及んでいたとはな…」
リュウガは静かに微笑む。
「俺たちは、通ってきた道のすべてでこの場所にたどり着いた。これは我らの家…であり、我らの武器だ。」
艦内の司令室に入ると、空気はさらに引き締まった。
ナビゲーションテーブルの上に、マグノリアが預かっていた古地図が広げられる。
その地図は時の流れで擦り切れていたが、中央には濃いインクで引かれた道が浮かび上がっていた。
アルサスはその縁に手を置き、地図を指でなぞる。
「簡単な道ではない」
そう言って、山岳が描かれた東の領域を指差した。
「この山々の向こう。母の遺した文書によれば、そこに“ダイヤモンドの塔”へ続く道がある。」
カグヤがテーブル越しに身を乗り出し、眉をひそめる。
「山岳地帯か…細い道が多く、待ち伏せには格好の地形ね。」
グレイオが低く笑った。
「それに魔獣だ!あの山じゃ、岩の影に百匹は隠れてるぞ。東の山は甘く見ると命を落とす。」
落ち着いた声で、セレステが続ける。
「どんな脅威が待ち受けていても、私たちは共に進んできた。だから、今回もきっと乗り越えられる。」
リュウガは黙って皆の言葉を聞き、そして地図の起点に指を置いた。
「何が待っていようと、そこに向かうしかない。“ダイヤモンドの塔”が存在するなら、必ず見つけ出す。
もしそれが虚構であっても…俺たちは真実を知る。」
マグノリアは一礼し、アルサスも静かに頷く。
「運命が交差したのなら、それを受け入れよう。俺たちは共に進む。」
その場の空気が一変する。
地図は広がり、新たな航路が刻まれる。
そして、すべての始まりは――この一歩からだった。