第126章――「ダイヤの塔の残響」
宿屋は活気に満ちていた。焼きたてのパンと香辛料の香りが漂い、グループの笑い声や議論が、他の村人たちのざわめきと混ざり合っていた。
アンとアイオは、誰が最後のエンパナーダを食べたかで言い争っており、ウェンディは怒ったふりをして、カグヤは――いつものように――秩序を保とうとしていた。ロボットの少女たちは、少し後ろの席からキラキラした目でその様子を見守っていた。
「いつも同じね」
スティオンが機械的な声で皮肉っぽく言った。
「ええ…でも、そういうのが“人間らしさ”ってものじゃない?」
別のアンドロイドが、かすかなデジタルの笑みを浮かべて応えた。
半獣の少女たち――ロバ耳の少女とキツネ尻尾の少女――は、まだ自分たちの居場所が信じられないように、控えめに笑っていた。だがその瞳からは、少しずつ恐怖が消え、見慣れぬ温もりが宿っていた。
リュウガは静かに水の入った杯をテーブルに置いた。
「誰が食べたかは重要じゃない。大切なのは…こうして一緒に食卓を囲んでいることだ」
その一言で、みんなが柔らかく笑い、ほんの一瞬、世界は安全に思えた。
だが――その静寂は破られた。
宿の扉が、きい、と音を立てて開いた。夜風が吹き込み、蝋燭の炎がいくつか消える。そこに立っていたのは、フードを被った謎の人物。マントの裾が床を擦り、足音がやけに正確で、どこか人ならぬものを思わせた。
村人たちは言葉を失い、視線を下げた。半獣の少女たちは身を寄せ合い、キツネの尻尾は逆立ち、ロバの耳は不安げに震えていた。
その女は一歩一歩、重々しく彼らの席へと近づき――そして、フードを取った。
銀色の髪。
紫に光る瞳。
その存在感は、影のように空気を飲み込んでいく。
「私の名はマグノリア」
その声は澄んでいて、深く、揺るぎなかった。
「そしてあなたたち…あまりに無警戒すぎる」
グループは一斉に緊張する。
セレステは剣の柄に手を伸ばし、ヴェルは眉をひそめ、クロは冷静に彼女の全身を観察していた。
「何の用だ?」
リュウガが低く問う。
マグノリアは微笑んだ。
「戦うために来たのではないわ。警告に来たの」
彼女の口から、思いがけない言葉が紡がれる。
「ダイヤの塔が…共鳴を始めた」
空気が凍る。
「その塔が目覚める時、選ばれし者もまた目覚める」
彼女の言葉はまるで予言の一節だった。
アイオが激昂して、テーブルを叩く。
「何を言ってるのよ!? はっきり言いなさい!」
マグノリアはまるでチェスの駒を弄ぶかのように、首を傾げる。
「もし伝説が正しければ…その継承者は、すでにこの地を歩いている」
沈黙。
アンが息をのむ。ウェンディが歯を噛み締める。アンドロイドたちさえ音を止めた。
リュウガは睨みつけるように彼女を見つめる。
「もし俺たちがその“警告”を無視したら…どうなる?」
マグノリアは身を乗り出し、囁き声のように冷たく言った。
「他の者たちが、私の申し出を受け入れるでしょう。そして…彼らは、私ほど慈悲深くはない」
そう言い残して、彼女は背を向け、静かに宿を出ていった。
扉が風に押されるように、ゆっくりと閉じる。
その場の空気がしばらく止まり、誰も言葉を発せなかった。
そして、キツネ耳の少女が震える声で尋ねた。
「だれ…あの人はいったい…?」
リュウガは答えなかった。
ただ、沈黙の中で天井を見つめながら確信していた。
――今夜は、もう安らぎの夜ではない。
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